千葉県の南に位置する安房地域(館山市・鴨川市・南房総市・鋸南町)では、恒常的な人材不足が課題となっています。そこで千葉県安房地域振興事務所では、令和6年度の取り組みとして「スポットワークマッチング支援事業」を開始。公募の上で、株式会社タイミーが選定され、安房地域における人手不足対策や多様な働き方であるスポットワーク推進に向けた取り組みを実施してきました。
その中で注力していたのが、事業者・働き手を対象にしたスキマバイトサービス利用セミナーです。事業者に向けては、安房地域の基幹産業である観光を中心に、介護、農業など産業別に開催。働き手には、シニアや子育て世代といった属性に合わせ、数回に分けて実施しました。
今回は、2025年1月に開催された「シニア世代向けスキマバイトセミナー」に参加後、実際にタイミーを通じてリハビリセンターで数回働いたという飯居幸子さんにインタビューを実施。また、スポットワークマッチング支援事業を実施した、千葉県安房地域振興事務所 所長の伏居(ふしい)丈夫さんにもお話をお伺いしました。
【ワーカーインタビュー】年齢や勤務時間で諦めていた介護の仕事。タイミーでもう一度挑戦してみた
——まずは、飯居さんご自身について教えてください。これまでどのような仕事をされてきたのですか?
飯居幸子さん(以下、飯居さん):結婚して上京したこともありましたが、生まれも育ちもずっと館山市です。若い頃は3人の子どもを育てながら、半導体工場の正社員として働いていました。そこでは事務職を経験しパソコンスキルも身につけることができましたが、会社の経営が厳しくなってきた頃、子どもたちは成人して手がかからなくなっていましたが、今度は両親の介護も視野に入れはじめたこともあり、ヘルパーの資格を取りました。19年勤務した会社はその後、解散、57歳のときでした。
その後、介護の実務経験を重ね、国家資格「介護福祉士」の資格を取得しました。当初はヘルパーとして、訪問介護の仕事からスタート。パートタイム労働者でしたが充実した毎日を過ごしていました。そこから有料老人ホームからお声がけいただき、正社員として働き始めました。しかし、不規則なシフトと仕事のハードさにすぐに退職してしまったのです。それからはスーパーで総務企画担当、仕入れを任せてもらったり、LINEを使ったチラシ配信の構築を担当したりお店のホームページ新規開設したり。半導体工場での事務経験がこんなところで活かせるなんて、嬉しかったですね。
でも、やはり心のどこかで介護の仕事に戻りたいな、って思っていました。人のお世話をできる喜びをもう一度感じたかったのです。ハローワークで見つけた障がい者施設で働き始めて、正社員のお声がけをいただいたこともありました。しかし、正社員になると早番や遅番など時間が不規則になってしまう。諦めざるを得ませんでした。
朝の時間は大事にしたい。スキマバイトという働き方に魅力
——確かにシフト勤務によって、生活リズムが不規則になることもありますよね。
飯居さん:私は家族と朝ごはんを一緒に食べることを何よりも大事にしていて、朝の時間は余裕を持たせたい。それだけは譲れなくて。民生委員や社会福祉協議会日常生活支援員の仕事をしていることもあり、どうしてもフルタイムで働くのは無理がありました。ただ、年金だけでは生活は大変ですから、夕方の時間帯を使って飲食チェーン店で働いていました。
それでも、せっかく国家資格をとった介護の仕事ができないかなと思い、ハローワークに行ってみたり新聞の求人広告を見てみたりしていました。しかし、年齢やフルタイム勤務などの条件で、なかなか働くことができませんでした。
——そのような状況が続く中で、スキマバイトセミナー(タイミー登録会)に参加されたのはなぜだったのでしょう?
飯居さん:元々テレビCMでタイミーのことは知っていました。朝の時間を大切にしたい私にとって、スキマ時間に働けるなんて、とても魅力的だったのです。スマホアプリを登録してみようと思ってスマホを操作してみたのですが、なぜかうまくいかなくって放置していました。
そんな中、民生委員の定例会に参加したときに、「スキマバイトのセミナーを開催するから、情報を伝えていただきたい」と依頼があり、チラシの内容を見て「あのタイミーだ!」って思い出しました。このセミナーに参加すればタイミーが使えるのでは、さらに介護の仕事が見つかるかもしれないと思い、隣に座っていた方に「せっかくだから、私たちも出てみない?」とお誘いしてみました。地元の房日新聞にもお知らせが掲載されていましたし、安全だろうと思いましたしね。
——実際にセミナーに参加されてどうでしたか?
飯居さん:登録の仕方だけではなく、仕事の探し方など丁寧に教えてくださって、私でも使えるんだと感じました。セミナーで「介護の仕事もありますよ」と教わりましたので、家に帰ってからはずっとアプリを眺めていました。
ただこの辺りは隙間バイトの介護の仕事の求人少なく「やっぱり無理かしら」と諦めていた次の日に七浦リハビリセンター(※1)の求人を見つけたのです。求人内容には「初任者研修(ヘルパー2級)以上の有資格者や介護施設経験者」とありましたので、私でも働けると嬉しくって、ドキドキしながら申し込みボタンを押してみました。以前、年齢制限で働けなかったこともありましたので、また働く機会がいただけたことは本当にありがたかったですね。当日が楽しみで楽しみで仕方ありませんでした。
※1:七浦リハビリセンターは、事業者向けセミナーを通じて利用を開始した事業者の一つ
資格が活かせる喜び、利用者様との会話。短時間でも働くことが本当に楽しい
——セミナーに参加してすぐに、お仕事に申し込まれたのですね。実際に働いてみていかがでしたか?
飯居さん:介護補助スタッフとして任せていただいたのは、リハビリに通われるご利用者様の歩行補助や通所移動車への乗降のお手伝い、検温や酸素濃度・血圧の計測やリハビリ用マシーン利用の介助、清掃や消毒作業などでした。私でもできるかしらと心配していましたが、スタッフの皆様がとても親切に教えてくださってすぐに仕事を覚えることができました。
何よりもご利用者様とお話することが楽しいです。「あなたはどこから来たの?」「この辺はお花がとても綺麗でね、大川のお花畑を見に行くと良いわよ」「俺は漁師やってるんだよ」なんて、ご利用者様の皆さん優しく話しかけてくださって。最初はぎこちなかった会話がだんだん親しみをこめてくださるようになり、ご利用者様の表情が明るくなるのを感じました。自分よりも人生経験豊富な方たちばかりで、いろいろ親切に教えてくださるのです。その様子を見てスタッフさんも喜んでくださるから、「私でもお役に立てたのかしら」と感動でいっぱいでした。
タイミーを利用することがなかったら、七浦地区を訪れることはなかったですし、こんな素敵な職場で働くこともできませんでした。これまで4回お世話になりましたが、早くご利用者様のお顔と名前も覚えたいですし、これからも定期的に働きたいと思っています。
——とても素敵な出会いになったのですね! 最後に、スキマバイトで働きたいけど踏み出せない同世代の方に向けて、メッセージをいただけますか?
飯居さん:私のようにシニア世代の方々も、まだまだ働きたいと思っている方は多いと思っています。タイミーを通じて働いた先で新たな出会いが生まれ、さまざまな人たちとコミュニケーションを取ることで人生に広がりが出ますし、生き甲斐も生まれます。なんといっても自身の認知症予防にもつながりますね。
「自分のスキマ時間に自分自身のスキルや希望に合った職場を選べる働き方」は、若い方はもちろん、私たちのようなシニア世代にもピッタリな働き方だと思っています。館山市や南房総市周辺でタイミーで働ける場所が、もっともっと増えたら嬉しいですね。
※2:飯居さんの取材は、レンタルスペース「海舟」にて実施しました。
【千葉県安房地域振興事務所 所長インタビュー】スポットワークという新しい働き方の周知を通じて地域課題の解消につなげたい
——まずは、安房地域における課題について教えてください。
所長 伏居丈夫さん(以下、伏居さん):どの地域も同じような課題を抱えているとは思いますが、安房地域は千葉県の南端部に位置していることもあり、働き手の不足が大きな課題でした。この事業の課題を検討している段階で、安房地域では有効求人倍率が2倍を超えていました。安房地域の関係人口を創出するために移住や二拠点生活などの取り組みが行われていますが、どうしても効果が出るまでに時間がかかる面があるという中で、並行して、地域の中で完結するものとして、働き手不足の解消に取り組む必要があると考えました。
——その中で、スポットワークに注目されたのはなぜでしょう。
伏居さん:地域の中でできるものとして着目したのが「潜在労働力の掘り起こし」としての、空いた時間に働くことができる「スポットワーク」でした。
社会的にもスポットワークという働き方が注目を集めつつある中で、安房管内の4市町(館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町)と協議を重ね、「スポットワークマッチング支援事業」の合意形成に至りました。そこで、まずはスポットワークを導入しやすいであろう観光・サービス業を対象に、セミナーの企画を進めていきました。取り組むにつれてさまざまな産業でも活用できる可能性を感じ、協力をいただいている管内市町のニーズにお応えする形で、介護業や農業など範囲を広げていきました。
——安房地域振興事務所を通じて各市町にも協力いただき、周知活動も行っていただきました。
伏居さん:本事業を進めていく中で、地域の事業者の皆様にスポットワークの理解を広めていくことが重要だと感じました。そこで各自治体の広報誌に取り上げていただき、周知活動を強化しました。
地域企業においては、既存の採用方法が主流となっている部分もあるかもしれませんが、スポットワークという新しい、多様な働き方に対し理解を深めてもらうために広報活動などを継続して取り組んでいく必要があると感じています。
——数回に渡ってセミナーを開催してみましたが、どのような印象をお持ちでしょうか。期待することなど教えてください。
伏居さん:実際にタイミーさんと一緒に進めてきた中で、活用実績は増加していますが、まだまだ伸びる余地はあると感じています。移住・二拠点生活事業を行う中で、移住を検討する方の中には、「生活環境は素敵だが、働く先を見つけることができるだろうか?」というお声もあると聞いています。スポットワークを通じて地域の仕事を体験し、安房地域での生活をイメージしていただければ、移住・二拠点生活へのきっかけになるのでは、と期待しています。
事業を実施する中で、事業者に向けた広報活動に関する課題が見えてきました。市町の方々からも協力をいただいて、今後も継続してスポットワークの広報などを通じた、地域課題の解消に取り組んでいきたいです。