「陸の孤島」をスマホで開く。石狩市浜益地区の漁師の実践に見る閑散期の新たな可能性

「陸の孤島」をスマホで開く。石狩市浜益地区の漁師の実践に見る閑散期の新たな可能性

日本海に面した北海道石狩市浜益区は、古くからニシン漁で栄えた歴史を持つ、水産業が盛んな地域です。ホタテ養殖やサケ、ニシン、タコ漁などで知られるこの地は、険しい地形に囲まれ、かつて「陸の孤島」と呼ばれていました。現在人口は1,000人を割り、高齢化率は約60%。地域内で完結していた労働力の助け合いは、人口減少によって崩壊しつつあります。

(浜益特定地域づくり事業協同組合HPより)

(浜益特定地域づくり事業協同組合HPより)

「獲れない、人もいない、仕事もない」。そんな冬場の課題に対し、あえて「外の世界」へ働きに出る漁師と、それを地域の未来への投資と捉える仕掛け人がいます。

今回は、現役の漁師でありながらスキマバイトアプリ「タイミー」で副業をしている村上登俊さんと、現役漁師でもあり、地域の人材確保を担う浜益特定地域づくり事業協同組合(浜ワーク)の徳地克実さんにお話を伺いました。

・漁師 村上登俊さん
・浜益特定地域づくり事業協同組合(浜ワーク) 徳地克実さん

冬の漁師事情。12・1月は「何もやることがない」という現実

——まずは村上さんにお伺いします。普段は多種多様な漁をされているそうですね。

村上登俊さん(以下、村上さん):そうですね。主にホタテ養殖やニシン、タコ、ナマコ、秋鮭などです。自分は個人事業主ですが、他にも親の仕事を手伝ったり、知り合いの漁に出面(でめん ※日雇い労働者のこと)で参加したりしています。浜益区は時期によって狙う魚は変わりますが、ここ最近は環境変化の影響もあって、全魚種が壊滅的になることも珍しくありません。

——そんな中で、これまで冬場はどのように過ごしていたのですか?

漁師でタイミーも活用している、村上登俊さん

漁師でタイミーも活用している、村上登俊さん

村上さん: 正直な話、12月から1月にかけて、俺たち漁師は本当に「暇」なんです。海が荒れて漁に出られない日が続きますし、ウニ漁なんかだと若い奴は一人でやれたりもしますから、手伝いも発生しない。昔なら親の漁の手伝いや、別の漁師のところへ出面として手伝いに行くこともありましたが、今はそれすら仕事がない。

漁に出ていないときの事務作業もあるけど、すぐに終わってしまう。家にいてもどうせやることないし(笑)。奥さんから何か言われるわけではないけど、家でダラダラ過ごしてると飽きちゃうんですよね。お金はやっぱり欲しいし、ぽっかり空いた時間に何かやれることないかなと思った時に、タイミーあるじゃんと思ったんですよ。

お子さんが冬休みの間は、時間を作って一緒に遊ぶことも

お子さんが冬休みの間は、時間を作って一緒に遊ぶことも

——そこで「タイミー」を使ってみようと思われたのですね。

村上さん:はい。CMで気になっていたのでダウンロードしてみました。スマホで調べたら、意外と自分にできそうな仕事が結構あるなと気づいて。タイミーを利用するようになってからだいたい1年くらいになります。

——具体的にはどんなお仕事をされているんですか?

村上さん:一番遠いところでは石狩湾新港の物流倉庫ですね。ここから車で1時間以上かかりますが、定期的に働いています。そこでは倉庫内での検品作業やスーパーの商品仕分けなどをやりました。

勤務時間は3時間から、長くて6時間でしょうか。本業や用事などとうまくバランスをとりながら気楽な感じで働いています。「時化で暇になったし、働きにいこうかな」と思って、スマホをポチポチして「行きます」って感じです。

噂には聞いてましたけど、本当に始業の2時間ぐらい前に、「働きに来てほしい」ってリクエストが来るんですよ。「なんだなんだ、俺の力が必要なのか?」って嬉しくなっちゃいます(笑)。

——あくまで「スキマ時間」の活用としてタイミーを利用しているんですね。

村上さん:そうです。ガッツリ稼ぐというよりは、空いた時間を埋めている感覚です。自分は暇な状態にあるのが辛いんですよ。これまではダラダラとスマホを見てましたが、今は気分転換をかねて働いています。

タイミーを使っていて嬉しいのは、やっぱり即日入金ですね。働いたらすぐにお金を引き出せるし、必要なかったらアプリ内でお金を貯めておけるわけです。働いた後すぐに引き出して、昼飯を食べて帰ってくることもできるし(笑)。その辺のフレキシブルさも気に入っています。見やすくて使いやすい設計になってるので、俺らのような漁師でも利用できると思いますよ。

「陸の孤島」の崩壊と、外へ出る必要性

——浜益地区の現状について、徳地さんはどうご覧になっていますか?

徳地克実さん(以下、徳地さん):浜益はもともと「陸の孤島」と呼ばれ、周りから閉ざされた地域でした。そのため以前は、農家も漁師もお互い様で助け合っていたんです。私自身も漁師なんですが、春には田植えを手伝いに行ったり、逆に秋鮭の時期には農家の人が船に乗りに来てくれたり。地域の中だけで労働力が循環していたんです。

——それが変わってしまった?

徳地さん:その通りです。過疎が進んで人口は1,000人を切り、高齢化率は60%ぐらいになりました。そのため、これまでの互助関係を維持できていた人材がいなくなってしまった。事業を縮小したり、網の数を減らさざるを得ないのが現状です。

私たちが運営する「浜ワーク(特定地域づくり事業協同組合)」では、移住者を雇用して地域内の一次産業や観光業へ派遣し、年間通じた安定雇用を作る取り組みをしており、たくさんの方が参加してくれるようになりました。それでも冬場の仕事作りには苦戦しています。大雪だったり、時化が続いたりと天候が厳しいため、農業も漁業も稼働できないわけです。

——その中で、村上さんのように外へ働きに出る動きはどう映りますか?

徳地さん:私は「どんどん外に行きなさい」と言っています。我々も繁閑期に合わせて仕事を斡旋しているわけですが、タイミーのようなスポットワークで働くことはとても良い影響になると思います。

浜益特定地域づくり事業協同組合(浜ワーク) 徳地克実さん

浜益特定地域づくり事業協同組合(浜ワーク) 徳地克実さん

漁師というのは、クローズドの社会ですから、本当に関わる人が少ないんです。組合に魚を出荷して終わりで、新たな営業をかけるわけでもない。会話の内容も相手も決まってしまって、世界が限定的になりがちです。外に出て、まったく違う業種で働けば、人間的にも揉まれるし、視野が広がる。知らない人とコミュニケーションをとっていくことで、「飛び込み営業ができる度胸」みたいなものが身につくかもしれない。決して、営業に転職してほしいわけではありませんが(笑)、今後漁師をやる上で必要となってくるさまざまなスキルが身につくのではないかと思います。

村上さん:確かに、外に出ると人の繋がりは増えますね。 セミナーでも話しましたが、「(浜益から近い場所にある)厚田の人がタイミーを始めて、近隣で募集されていた道の駅に働きに行った」という話も聞きました。意外とみんな使っているんですよね。

——村上さんは、外で働くことで本業へのメリットを感じることはありますか?

村上さん:ありますね。例えば「直販」の可能性です。漁協に出して終わりではなく、「漁師から直接買いたい」というニーズは確実にあります。外の現場で知り合った人と仲良くなってコミュニティが広がっていけば、そこが新しい販路になるかもしれない。

もっと先の展望として、タイミーを「勉強」に使いたいと思っています。例えば「留萌(るもい ※浜益地区から1時間ほど北上したところにある)」の方へ行けば、同じホタテ漁であっても浜益とはやり方が違います。タイミーを通じて他地域の漁業や農業の現場に入り込み、学んでみたい。普通のルートであれば「数か月来てくれ」と言われてしまい、本業もあるから断るしかないんですけど、スポットワークであれば数時間から働くことができますからね。

——それは面白い視点ですね!単なる労働ではなく「視察」に近い。

徳地さん:それが大事なんです。それに、タイミーのようなアプリは、実は地域内のコミュニケーションの壁も下げてくれる可能性があります。田舎だと、近すぎて逆に頼みづらいことってあるんですよ。「直接電話して断られたら気まずい」「今後の関係性もあるし、声をかけるのはやめておこう」とか。でもアプリを介せば、ビジネスライクにマッチングできる。「あまり話したことがない農家さんだけど、アプリ経由なら行ってみようか」となるかもしれない。反対に「あそこの漁師とは話したことがないけど、アプリ経由で働いてみようかな」とかもあり得ますね。

地域内のコミュニケーションの壁も下げてくれる

——人間関係のクッションになるわけですね。

徳地さん:それに、私個人としては、タイミーを「巨大な広告媒体」だと思っています。何千万人が利用するアプリ上で、「石狩市浜益」という文字が表示されるだけで価値があります。札幌市や小樽市、旭川市など、2時間圏内の人が「浜益の仕事、面白そうだな」と働きに来てくれれば、それが関係人口の第一歩になります。自分たちで求人広告を出すのは大変ですが、アプリなら向こうから見つけてくれる。これは使わない手はありません。

スポットワークで外の世界が見れる。地域を守る手段の一つに

スポットワークで外の世界が見れる。地域を守る手段の一つに

——最後に、今後の浜益のあり方について一言お願いします。

徳地さん:正直なところ、浜益地域内で冬場の仕事を創出できていない現状は「情けない」と思っています。まだまだ人を雇う体力がない事業所も多いのは事実です。でも、だからこそ村上さんのように外で稼ぐ力を持つことは、地域を守るための現実的な解の一つです。外で稼いで、外の人を連れてくる。その循環を作っていきたいですね。

村上さん:俺らの仕事は自然相手なので、どうしても波があります。でも「仕事がない」と嘆くより、アプリ一つで外の世界が見られるなら、その方が絶対に楽しい。浜益の漁業を活性化させるためにも、まずは自分が動いていろんな可能性を探っていきたいと思っています。

事業者向け「タイミー」導入セミナー実施

当日は、石狩市浜益地区の事業者に向けて、スキマバイトサービス「タイミー」導入セミナーを実施。セミナーでは、一次産業グループ 松田祈によって昨今の労働市場の概況や弊社サービスの仕組みに加え、浜益地区の基幹産業である農業・漁業における導入事例などをご紹介しました。当日は多くの地域住民の方にご参加いただき、終始和やかな雰囲気のもと、浜益地区が秘める可能性について活発なディスカッションが交わされました。

また、実際にタイミーを活用されている村上さんには、参加者から次々と質問が飛び交い、思わずタジタジになる場面も(笑)。地域で新しい働き方を実践している方の「生の声」を聞くことができ、非常に有意義な時間となりました。

事業者向け「タイミー」導入セミナー実施

お子さんと一緒に登壇

おすすめ記事