「どうせ若者は来ない」漁業の常識を打ち破れ。鳴門町漁業協同組合がタイミー導入で越えた「3つの壁」

「どうせ若者は来ない」漁業の常識を打ち破れ。鳴門町漁業協同組合がタイミー導入で越えた「3つの壁」

慢性的な人手不足、漁師の高齢化、そして後継者不足——

水産業界が厳しい課題に直面して久しくなっています。その一方で「仕事が天候に左右される」「作業が専門的すぎる」「そもそも地域外の新しいサービスは浸透しづらい」といった業界特有の高い壁が、新たな人材確保の取り組みを阻んできました。

鳴門町漁業協同組合

そんな中、徳島県の鳴門町漁業協同組合(以下、JF鳴門町)が、県内の漁協として初めてスポットワークサービス「タイミー」の活用に踏み切りました。導入の中心となったのは、組合のNo.2として課題解決を模索していた福池誠さんと、現場の若手漁師を率いる青年部会長の悦晃一さん。そして、その挑戦を「よそにやられる前にやれ」と後押しした、福池昌広組合長です。

「どうせ集まらない」という根強い思い込み。「漁師は気難しい」という現場のリアル。そして伝統的な組織ならではの意思決定プロセス——彼らはどのようにしてこれらの「壁」を乗り越え、水産業界の新たな可能性の扉を開いたのでしょうか。JF鳴門町の導入サポートを行った株式会社タイミー 地方創生グループ 一次産業チームの菅原諒がファシリテーターとなり、スポットワーク導入のリアルな舞台裏を伺いました。

・鳴門町漁業協同組合 代表理事組合長 福池昌広さん
・鳴門町漁業協同組合 参事・総務主任 福池 誠さん
・鳴門町漁業協同組合 青年部/合同会社オイスタープロフェッショナル CEO 悦 晃一さん
・株式会社タイミー 地方創生グループ 一次産業チーム 菅原諒(インタビュアー)

スポットワーク導入前のリアル。「個人」で抱えていた人手不足のジレンマ

——本日はよろしくお願いします。スポットワーク導入以前、JF鳴門町として人手不足に関してどのような課題を感じていましたか?

福池 誠さん(以下、福池さん):実は、組合(JF鳴門町)だけでなく「組合員」、つまり漁師さん一人ひとりの「個人事業主」のレベルでも起きていました。

福池昌広さん(以下、福池組合長):今までは、働き手が欲しければ各々が「声掛け」をして探すのが当たり前だった。でも、年々声をかけられる人も少なくなるし、これまで働いてくれた人も我々と同じように高齢化していく。教育大学の学生さんが手伝いに来てくれることもあるけれど、安定的な確保は難しい状況でした。

鳴門町漁業協同組合 代表理事組合長 福池昌広さん

鳴門町漁業協同組合 代表理事組合長 福池昌広さん

悦 晃一さん(以下、悦さん):例えば僕の場合、牡蠣を販売するために一個ずつ重さを量る作業があるんですが、これは正直、僕じゃなくてもできる単純作業です。 こういう軽作業を「数時間だけ手伝ってほしい」と思っても、そのために人を常時雇用するほどの仕事量ではない。かといって、他にどこで人材を確保すればいいのか分からない。この「ちょっと困った」を解決する手段を探していました。

——悦さんのような漁師さんが抱える「個人の課題」に、組合としてどう向き合おうとされたんですか?

福池さん:これまでは、人材確保はあくまでも個人の問題として、組合が積極的に関与することは少ない状態でした。しかし、スポットワークという働き方の話を聞いているうちに、「組合が漁民を守る」という本来の立ち位置の中で、働き手を用意することも組合の役割ではないかと考えるようになりました。組合員さんが「明日人手が欲しい」となった時に、スマホからすぐに募集ができるような実績をまずは組合で作る。そして、募集のテンプレート(雛形)を用意するなど、情報共有ができたら、どれだけ彼らは助かるだろう、と。

鳴門町漁業協同組合 参事・総務主任 福池 誠さん

鳴門町漁業協同組合 参事・総務主任 福池 誠さん

もちろん、専門的なことはお任せするのは難しいかもしれませんが、悦さんの話にあったように担ってもらえる作業は必ずあるはずだと考えました。

立ちはだかった「3つの壁」とその突破口

——とはいえ、水産業界で新しいサービスを導入するには、いくつも壁があったかと思います。

福池さん:おっしゃる通りです。正直、最初は僕らでさえ、「タイミー?怪しいサービスじゃないか」とすら思っていました(笑)。だから、菅原さんから農業法人でのタイミー活用事例を聞いても、「それはJA(農協)だからできるんだろう」と思ってました。

——(笑)。私も一次産業チームとして生産者様の支援をしていますが、特に漁業は新しいサービスへの耐性があり、地域外のものを敬遠しがちという声を聞いたことがあります。具体的にはどのようなことがネックになっていたのでしょう?

壁1:「どうせ集まらない」という“思い込み”の壁

福池さん:まず一番は、「新しいサービスを導入しても、そもそも人が集まらないのではないか」「特に若者なんて来るわけがない」という、根強い“思い込み”でした。これまでも、新聞の折り込みチラシや求人媒体などで募集しても、人が集まらなかったという苦い経験がありますから。どうせやっても、こんな田舎に来るわけがないと半ば諦めのような気分でした。

悦さん:正直、僕をはじめ青年部でも最初は疑っていました。だから、福池さんから話を聞いたときに「ほんまに働き手が来るんか?」と、半分疑いつつも半分興味本位な部分もありましたね。

——その強固な「来ないだろう」という思いを、どうやって乗り越えたのですか?

福池さん:いきなり本格導入するのではなく、まずは青年部が主催するイベントで、試験的に使ってみることにしました。「募集をかけて、来なかったら来なかったでしょうがない」くらいの気持ちでやってみることにしたんです。導入するだけであれば無料ですし。

——7月の「うまいもん祭り」で活用いただきましたね。実際にタイミーを使ってみてどうでしたか?

福池さん:タイミーの営業担当さんから、募集の仕方や細かい使い方を直接レクチャーしてもらい、「こういう求人の書き方をすれば、若い人が来てくれるんだ」という具体的なノウハウを得られたのも大きかったと思います。次回以降のイメージが明確に持てました。

悦さん:「こんな情報をタイトルに入れるといいですよ」とポイントも教えてくれたので「一本釣りした『魚』が見れます」と入れてみました(笑)。僕らにとっては当たり前のことなんだけど、こんな風に募集をすれば興味を持ってもらえるんだと新しい発見がありました。

調理補助・運営補助業務を募集し、枠はすべて埋まった

調理補助・運営補助業務を募集し、すべて埋まった(イベントにて)

福池さん:驚いたのは、専門学生さんなど若い方の申し込みがあったこと。若い人もこんな田舎町まで来てくれて、漁業の仕事に興味を持ってくれたことは嬉しかったですね。この「成功体験」が何よりも大きかったと思ってます。

壁2:「漁師は気難しい?」現場の“心理的”な壁

——もう一つの壁として、「漁師は気難しい」「漁業は大変そう」といった、漁業の現場特有の偏ったイメージがある印象です。実際にかなり技術が求められる部分もありますし、専門用語も多い中で、ワーカーさんが働いてくれるかどうかと思われたのではないでしょうか?

福池組合長:それは否定できないね(笑)。漁師には独特の気質があるから。彼らも悪気はないんですが、外現場になるため声が大きいし、言葉遣いも荒っぽく聞こえがちかもしれない。

悦さん:漁業は特に家族経営が多いことも影響があるかもしれません。パートさんが長くなって身内みたいになってくると、つい言葉が荒くなる(笑)。「おい」とか「あれ取って」とか。傍から見たら漫才みたいなもんですが、初めて来たワーカーさんは怖くなってしまうかもしれない、という心配はありました。

鳴門町漁業協同組合 青年部 悦 晃一さん

鳴門町漁業協同組合 青年部 悦 晃一さん

身内でやっていた分、僕らも来てくれたワーカーさんに対して「腫れ物に触るような」感覚がありました。言葉遣いはもちろん、「放っておいていいんかな?」「時間大丈夫かな?」と、普段より気を使いすぎちゃいましたね。

福池組合長:気を使う分には存分に使った方がいい。これまで閉鎖された社会でやってきたから、外からどう見られているか知る良いきっかけになるかもしれない。

福池さん:その視点は大事ですよね。仕事内容はもちろん、雰囲気を感じてもらうためにも、まず一度タイミーを通じて働いてもらうことは“漁業という世界”を知ってもらうために最適な方法だと思いますね。組合長とも話していたのですが、良い方がいれば「長期で働かないか」と無料で声掛けできるのも良い点です。若い方にたくさん知ってもらって、次につながる可能性にも期待しています。

——一方で、初めての方に、専門的な仕事は任せられない、という懸念もあったのでは?

福池組合長:そりゃそうだね、専門的なことは絶対に任せられない。大事な働き手さんに難しいことをお願いをして、万が一怪我をさせるということは絶対に避けなければならないから。例えばワカメ一つにおいても、ワカメ加工場での炊く作業(茹でる作業)はタイミングや濃度など専門的な知識を要するし、火傷しないように意識することも求められる。であれば、他の単純作業をお願いできるのはいいかもしれない。

福池さん:そこは明確に切り分けました。例えばワカメの作業なら、専門的なところではなく、ワカメを炊いたあとの「冷やし」や「取り込み」といった、誰でもできる補助的な作業をお願いするイメージです。実際にイベントの求人を出したときも、丼調理の補助や設営手伝いなど、誰でも一度説明すればできることをお願いするようにしました。実際にタイミーで働いてもらって、「言ったことはきっちりやってもらえた」という安心感が得られましたね。

悦さん:今は動画を利用すれば、初めての人が働きに来てもすぐに活躍いただける環境は作れると思いますね。例えば、自分たちにGoPro(カメラの種類)を装着し、実際に作業してる様子を撮影すれば、簡単にマニュアルになります。

——一次産業チームでは、ワーカーさんにお願いしたい仕事内容をマニュアル化し、それを求人募集時に添付するようにしています。働く前にそのマニュアルを一読してもらえれば、すぐに作業に取り掛かれるような仕組みがあるので、雇い主も働き手も双方が安心して取り組んでもらえるはずです。

壁3:「既存の働き方」と“組織”の壁

——新しい働き手が入ることで、既存のパートさんたちの仕事を奪ってしまうのでは、という懸念はありませんでしたか?

悦さん:それはまったく心配ないですね。既存のパートさんのスキルや経験は非常に重要ですから、その方たち自身の仕事がなくなるわけではありません。というのも、僕ら漁師やパートは一人ひとりが社長(個人事業主)なんです。だから「仕事を奪う」という感覚ではなく、純粋に「来てくれたほうが助かる」「ありがとう」という気持ちの方がはるかに大きいです。自分たちのメインの仕事以外の、ちょっとした作業をやってくれる人がいるのは本当に助かります。

——そう言っていただけて嬉しいです。最後に、漁協という「組織」についてお聞かせください。独特の業界であるが故、意思決定が大変だったのではないでしょうか。

株式会社タイミー 地方創生グループ 一次産業チーム 菅原諒

株式会社タイミー 地方創生グループ 一次産業チーム 菅原諒

福池さん:今回のイベントでの活用は、あくまでも「漁業で活用できるかどうか」を検証するため。まずはサービスを理解することが目的でした。ですから大きな反対はありませんでしたね。組合長も背中を押してくれたことも大きかったです。

福池組合長:そんなもん、全員からの許可を待ってたら(活用事例を)よそに取られてしまう。漁師にとって良いサービスなのであれば「早よやらんとな」と。

福池さん:いきなり「タイミーを導入します」とJAの活用事例などを持ち出しても「うちはJAとは違う」「漁業は特殊だ」となって、話が進まなかった可能性が高いです。それよりも、まずは青年部の話として、組合長の許可のもとでスモールスタートを切る。そして、「JF鳴門町がこうやって使ってますよ」「実際に若い人が来てくれましたよ」という一つの形、生きた成功事例を作ってしまう。そうすれば、他の組合も「お、なんや?」「うちでも使えるんか?」とスッと話を聞いてくれるようになります。

悦さん:漁師の世界は噂が広まるのが本当に早いですから、何かしらの事例を創出することは効果的です。特にワカメの時期は隣同士のお互いが見える場所で作業してるから「あそこ、なんか若い子が2人来とるぞ」となったら、みんな絶対に見に来ますよ(笑)。その「事実」が一番の説得材料になります。

「閉鎖的」から「開かれた」漁業を目指して

「閉鎖的」から「開かれた」漁業を目指して

——試験的な導入を経て、組合や現場にどのような変化がありましたか?

福池さん:まだ始まったばかりですが、一番は「意識の変化」です。今回、若い人が来てくれたことで、「こういう簡単な作業でも一般の人ができるんだ」という認識が広まりました。 これが、漁業の「閉鎖的」な部分が「開かれて」いく、大きなきっかけになると思っています。今まで接点のなかった若い世代が現場に入ることで、職場が明るくなるかもしれない。ワーカーさんと話す中で、一見怖そうに見える漁師の、実は気さくな部分も知ってもらえるかもしれない。いろんな効果を期待しています。

悦さん:僕ら若手の会(牡蠣の会)でも、情報交換の場で「タイミー、使えるらしいぞ」と広がっていくイメージはあります。陸上(おか)での選別や仕分け、出荷作業なら、人が来てくれるならなんぼでも欲しい。これは鳴門に限らず、全国どこでも同じはずです。

——今後の可能性について、どうお考えですか?

福池さん:もしかしたら、タイミーを通じて働いたことがきっかけで、漁業に興味を持ってくれるかもしれません。そうすれば、僕らの方でサポートすることもできるし、徳島県がやっている「とくしま漁業アカデミー」(後継者育成事業)につながる可能性もある。そういう意味でも、タイミーは漁業に興味を持ってもらう「入り口」として、すごく可能性があると思います。

福池組合長:確かにこれまでの慣習や仕組みを貫いていたままでは、新しい働き方の導入は難しい。だから「やっていこう、やるしかない」と。我々は未来を見ないといけない段階に入ってきているわけです。

まずはこのイベントでの活用事例を、理事会や総会で言い続けていくつもりです。まずは鳴門地域の漁業においてタイミーを導入して、「試しにこの繁忙期だけでも使ってみないか」と提案していく。早速、他の漁協の会長にも「うち使ってみるけど、そっちはどうや?」と話してみますよ。

言い続けていく

——組合長自らが働きかけてくださると、周りも安心して導入が進みますね。最後に、人手不足に悩む全国の漁業関係者へメッセージをお願いします。

福池さん:現場で「誰かおらんかー?」と常に探している現状がある中で、こうやってスマホ一つで気軽に働き手を雇える仕組みがあることを、まずは知ってほしい。これが全国に広がれば、漁師さんの負担が少しでも軽くなるはずです。

悦さん:イベントでのタイミー活用で感覚をつかむことができました。今後は、タイミーを活用し、牡蠣の生産・販売を加速させるのにつながったらいいな、という気持ちがあります。そうすれば、今までできなかった陸仕事に注力できるし、飲食店運営にもより一層力を入れることができますから。真面目な話、最初は疑う気持ちも分かりますが、まずは使ってみて、その便利さと「本当に人が来る」という体験をしてほしいですね。

福池組合長:タイミーを導入するにあたって心配されるのは、「天気が悪かったら仕事がなくなる」こと。せっかく仕事に申し込んでくれたワーカーさんがキャンセルになったら申し訳ない。でも、タイミーのルールに従って募集を出せば解決されることがわかって、安心しています。

不安要素はたくさんあるかもしれないけど、そんなことを言ってたら何も始まらないし、まずは事例を作らないと。うちらが、その先陣を切っていきます。

——タイミーとしても、JF鳴門町の皆様、および鳴門地域の漁師さんの人手不足が解消できるよう、取り組みを加速させていきます。本日はありがとうございました!

取り組みを加速させていく

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