日光市 企画総務部長が語る、市民のためを第一に考えた民間連携のポイント【セミナーレポート】

日光市 企画総務部長が語る、市民のためを第一に考えた民間連携のポイント【セミナーレポート】

タイミーはスポットワークの普及を通じて、各自治体様が抱える労働力不足といった行政課題に向けて取り組みを進めています。おかげさまで、現在は15都道府県、25自治体との連携協定を締結しています(2025年3月時点)。

そこで、2025年2月26日、連携を結んでいる自治体様とはどのような取り組みを行っているのか、全国で広がるスポットワーク×地方自治体の事例を紹介するオンラインセミナーを開催しました。第一回の登壇者は日光市 企画総務部長である小林 岳英さんをゲストとしてお招きし、事例をご紹介いただきました。司会は、日光市を担当している株式会社タイミー スポットワーク研究所 地方創生グループの日野原明が担当。本記事ではその内容をレポートします。

栃木県日光市 企画総務部 部長 小林岳英さん

栃木県日光市 企画総務部部長 小林岳英さん

1990年今市市役所に入庁。市町村合併により2006年日光市職員となる。入庁以来、広報、法務、行政改革及び公共施設マネジメント、人事、政策など、企画、総務部門の業務を担当する。2021年総合政策課長としてワーケーションやテレワークの推進を所管し、2022年から現職。

株式会社タイミー 日野原明

株式会社タイミー スポットワーク研究所地方創生グルーム自治体チーム 日野原明

1988年群馬県出身。都内の大学卒業後、新聞社に新卒入社。広告営業やイベント運営、音声番組の司会者などを担当。2024年株式会社タイミーに入社。スポットワークで地域の課題解決を図り、地方創生を目指している。

タイミーと包括連携協定を締結した理由。労働不足課題の解決に向けて

小林岳英さん(以下、小林さん):まず簡単に日光市の紹介をしたいと思います。2006年3月20日、市町村合併を経て誕生した日光市は、栃木県の北西部に位置し、県土の約4分の1を占めているんですね。その面積は約1,450㎢、全国で3番目の大きさを誇っており、広すぎるぐらいです(笑)。さらに、標高は200mから2,500mと変化に富み、雄大な自然が特徴です。豊かな自然に恵まれるといえば聞こえがいいかもしれませんが、豪雪といった厳しい面も併せ持っています。

日光市の紹介

(日光市登壇資料より)

合併当初約98,000人だった人口は、現在約77,000人と減少傾向にあります。しかしながら、ご存知の通り年間を通じて多くの観光客が訪れる人気の観光地でもあります。世界遺産に登録された「日光の社寺」やラムサール条約に登録された「奥日光の湿原」など、貴重な文化遺産と自然が魅力です。

日野原明(以下、日野原):今回は「地方創生×スポットワーク」というテーマなので、まずは日光市における働くことに関して現場の課題感を教えていただけますでしょうか。

小林さん:新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、観光業、中でもホテル業界において離職者が増加し、その後の観光客の回復に対応しきれないという事態が発生しました。インバウンド需要が高まる中、客室稼働率が60〜70%に留まっている。これをきっかけに、改めて日光市の労働状況を見直したんですね。

合併後、人口は減少傾向にあるとお話しましたが、データを見てみると15歳以上の就業者が市内従業者数を上回っていることがわかりました。つまり、相当数の労働力が市外に流出してしまっている状態であり、言い換えると「市内での労働ポテンシャルがある状態」なんです。就労場所の整備、そしてスキマ時間を活用した働き方促進をすれば、潜在的な労働力を掘り起こせるかもしれない……。それで、タイミーと包括連携協定を締結することになりました。

日野原:2024年5月の包括連携協定に併せて、日光商工会議所や足尾町商工会など市内経済団体を交えて雇用創出に係る連携協定も締結しました。取り組んでいく課題を4つに分類し、「働くを創造するプロジェクト」として取り組んでくださっています。

小林さん:図で説明すると、まずは先ほどお話しした「コロナ禍の影響による労働力不足」「生産年齢人口減等による労働力不足」です。まずは即時性が高い取り組みからスタートしており、仕事の細分化を行ってスキマ時間の捻出、タイミーを活用してもらうことを想定しています。あとは人口が少ない自治体として「特定業種の労働力不足」も挙げています。例えば、介護や交通のような資格を要する分野における人材の確保・育成ですね。ここは市外や外国人労働力も見据えています。そして「特定課題への対応(就労の場確保)」です。障がい者や女性など、多様な人材に対して働く場所を提供するために、創業支援や企業誘致、市内企業支援などを行っています。

働くを創造するプロジェクト

(日光市登壇資料より)

日野原:タイミーの取り組みをご紹介しますと、現在は「潜在労働力の確保」をテーマに掲げ、事業者様の開拓、およびタイミー利用提案を行っております。

潜在労働力の確保に向け実際に取り組んだ施策

(タイミー資料)

過去数回実施する中で、観光・宿泊に携わる事業者様だけではなく、飲食店や製造業の責任者の方にもお越しいただきました。介護施設に限定したセミナーも実施したこともあります。このような活動を日光市様と取り組みを進めてきた結果、2024年10月前年対比で、日光市内のワーカー数は約1.9倍、事業者数は約2.8倍と効果も表れています。小林さんはタイミーを活用している事業者様から何か感想など聞いていますか?

小林さん:先日、あるホテルの社長が「タイミー経由で働いていた方が入社した」とおっしゃっていました。そのワーカーさんは小山市在住だったようなんですが、「観光地で働いてみたい」と興味を持ち、母娘で泊まりながら働いていたんだそうです。そういう新たな価値が広がっていくことは、今までにはなかったことです。

日野原:まさに交流人口から関係人口に変わった事例になりますね。タイミーとしても嬉しいです。

小林さん:そうですね。多くの観光自治体が抱える課題だと思うのですが、交流人口から関係人口につなげていくのは難しいと思うんです。我々もテレワーク事業やワーケーション事業を行っていますが、働きに日光市にきてくれるという新たな事例ができました。

タイミーを通じて市内に眠っている労働力の掘り起こしはもちろんですが、市外の労働者に市内で働いてもらうことへの有効性を感じています。ただ、うちの自治体だけで取り組んでも難しいと思うので、広域連携なども面白いかなと視野に入れています。

オンラインセミナーの風景

オンラインセミナー風景。小林さん(左)と日光市担当の日野原

それは市のため、市民のためになっているか?連携協定の進め方

日野原:最初にお話をしてから1か月半程度で協定締結を結んだわけですが、かなり早いスピードで動かれていた印象です。

小林さん: 基本的にあまり寝かせたくないので、企業とはスピード感を持って話を進めるようにしてます。やはり自治体時間と企業時間って違い、自治体は遅いんですよ。ですから、できる限り企業時間に合わせて、スピーディーに判断してやっていくように意識しています。

日野原:ここでお伺いしたいのですが、民間企業や団体と連携していくとなったときに、どのような調整などが必要なのでしょうか。庁内調整が大変だったり、反対の声が上がったりする自治体さんの声も聞いております。

小林さん:日光市の場合、私が管轄している企画総務部の中には、総合政策課という民間企業や大学との窓口を引き受け、関係各所をつなげていく部門があります。タイミーさんとの協定においても、商工課、高齢福祉課などいろんな部署が絡んでおり、取りまとめていく……というイメージですね。

よく「公民連携をスムーズに進める方法はあるか」と聞かれることもありますが、嫌われ者になる覚悟は必要です。我々の部門が大切にしているのは「市のための、市民のための取り組み」を推進していくこと。施策を政策的に判断し、信念を持って担当課と話をする。ときには強引に推し進めていく。あくまでも市や市民にとって長期的にどうなのか、ジャッジする存在は重要だと考えています。

日野原:反対に担当課から「こういう企業と連携したい」など相談を受けることはあるのでしょうか?

小林さん:やはり日々の仕事がどうしても手一杯になってしまうという部分もありますし、なかなか新しいことに一歩踏み出せない状況だと思います。だからこそ、うちの総合政策課が課題を整理した上で提案した方が話は早いですし、彼ら彼女らもイメージしやすいのではないでしょうか。

日野原:2019年からさまざまな企業や大学と連携をされているようですが。

小林さん:そうですね。基本的に日光市の課題解決のために、新しいこと、楽しいことをやっていこうよと言ってくれたところと連携を進めていくようにしています。名ばかりの連携では意味がありませんからね。ですから、相当数の企業から話を聞くようにしていますし、「是非とも日光市を実証実験の場として活用してくださいよ」ってお伝えしています。お話を聞くことで、日光市が抱える新たな課題が見えてくることもありますからね。

公民連携の取組

(日光市登壇資料より一部抜粋)

日野原:こういうテーマに対して、この企業と組むことによって、どのような効果が見込まれるか……。協定後のストーリーをイメージされているわけですね。

小林さん:事業者さんだけがWinになってもしょうがありません。市民にとって果たして良い状況になるのかが大前提。課題に対して解決策が見出されないものは、そもそも協定を結ばないというのがスタンスです。あとは協定といわゆる業務委託契約を混同しないことがとても大切だと思っています。例えば、市がやってる事業を協定を結んでいるから特定の事業者さんに出しましょうは違います。市民サービスの質を向上させるために、どの企業の知識・ノウハウ・資源を活用すべきかをフラットな視点で考えることが我々の仕事です。

ただ、最近では単純に売上だけではなく、地域貢献を求めている企業さんが非常に多いと感じています。例えば、日光市と一緒にやることで地域貢献になって企業PRにつながるのであれば、我々としても嬉しい限りです。日光市は圧倒的な交流人口数がありますから、うまく事業機会の創出ができたらいいなと思っています。

女性活躍推進においてもタイミー活用の可能性を感じる

日野原:日光市では女性活躍にも力を入れているのですね。とても先進的なテーマだと感じました。

小林さん:実は 令和5年に日本で初めてG7男⼥共同参画・担当⼤⾂会合が開催されたのですが、日光市で行われたんですね。それをきっかけに女性活躍という文脈で何かできないか模索しはじめました。そこで、仕事に無関心な人たちや諦めてる人たちを対象に、デジタルワーカーを育成する「Smart Work Women Project(SW²P:スワップ)」というプロジェクトを立ち上げ、女性の労働力をどのように高めていくかという起点で今取り組んでます。

www.city.nikko.lg.jp

現在は、デジタルスキルの習得やデジタルワークの訓練に取り組んでおり、受講生も増えています。

Smart Work Women Project(SW²P:スワップ)

スワップには女性が活躍できる社会に置き換えるという意味も(日光市登壇資料より)

推進する中で気が付いたのは、デジタルの時代だからこそアナログが重要だということ。コワーキングスペースも、受講生同士でコミュニケーションをしてほしいというアナログ観点から作りましたが、例えば、タイミーで就業体験を行い、セミナーのプログラムの一つとして導入できないかと検討しています。

日野原:アナログを疎かにしていたわけではないけど、より重要性に気が付かれたわけですね。タイミーのフレームを使えば、就業体験のプログラムが実現できそうです。

小林さん:世界遺産で仕事をしてみるとか面白そうでしょう? それも、タイミーさんとさまざまな取り組みを進めていく中で、お互いにとってWin-Winな部分ってどこがあるかなと考えるうちに「これもできるんじゃないか?」とどんどんイメージが膨らんできました。でも、自治体はどうしてもスピード感が遅いことがネックです。ですからタイミーさんの力を借りつつ、迅速に形にしていけたらと思います。

日野原:やりたいことが山のように出てくるのは、小林さんが常に市の、市民の課題に向き合ってるからこそですね。連携協定の在り方として私自身も非常に勉強になりました。最後に、セミナーをご覧になっている方に向けてメッセージをいただけますか。

小林さん:実は最初、タイミーと連携する話になったときに、「自治体として何ができるんだろう」「自治体としてどう入り込むべきなんだろう」と疑問があったんです。スキマバイトと自治体事業がどのように結びつくのだろうとわからなくて。

しかし、会話を重ねるうちに、労働者を掘り起こしたい・増やしたいと考える商工会議所や商工会を巻き込み、課題とやることを整理していくことで、労働政策として取り組むことができるのではないかと実感することができました。そして、タイミーとの連携を進めていくと今度は介護や女性活躍という行政課題の解決につながっていったんです。 長くなりましたが、今後も何かタイミーさんと楽しいことをやりたいなと、セミナーに登壇して改めて感じることができました。引き続き、面白いことをやっていきましょう!

日野原:是非、今後ともお願いします。本日はありがとうございました。

セミナー後のひととき

当日は質疑応答の時間も設けられ、和やかな会になりました。セミナー参加者からの満足度も高く、もっと話が聞きたかったという声をいただいております。今後も定期的にオンライン/オフラインセミナーを開催予定です。是非、ご参加ください。

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