
- プロジェクトの全体像
- 働いて、交流して、佐渡市の魅力を深く知る。モニターツアーの概要を紹介
- 「牧場のファンを増やし、牛のイメージを変えたい」参画事業者様の声
- 佐渡市 地域振興部 移住交流推進課 課長 西牧孝行様のコメント
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佐渡市と株式会社アドレスは、2021年に 「関係・交流人口の拡大による地域活性化連携協定」を締結し、これまでも空き家活用やワーケーション推進において強固なパートナーシップを築いてきました。
本プロジェクトは、この連携協定をさらに発展させ、滞在者に「はたらく」という地域との新たな関わりしろを提供することで、関係人口の定着〜再訪促進を目指す次フェーズの取り組みです。佐渡市では既に複数の地域事業者が受け入れに意欲を示しており、滞在者にとっては四季折々の自然の中で貴重な就労体験が得られる環境が整いつつあります。
そこで、今回は本プロジェクトのモニターツアーをレポートし、その可能性を探ります。
プロジェクトの全体像
本プロジェクトは、東京都の「TiB CATAPULT」事業において、JAグループの一般社団法人AgVenture Labが代表事業者を務めているSA&Fクラスターの支援のもと、定額制多拠点居住サービスを展開する株式会社アドレスと、スキマバイトサービスを展開する株式会社タイミーが協働し、新潟県佐渡市をフィールドとして実施する実証実験です。JAグループの地域ネットワークと結びつけることで、「一次産業への就労・観光・交流」という新たな地方創生を行っていきます。
佐渡市を訪れるADDress会員(滞在者)に対し、地域の人手不足が深刻な一次産業等の現場で「スポットワーク(スキマバイト)」として働く機会を提供。これにより、これまで観光が主な滞在の目的だったところを、「地域での就労体験」へと昇華させ、地域の新たな魅力を体験する機会とすることで、地域と来訪者の関係性を深める新たな関係人口創出モデルの構築を目指します。

本プロジェクトを取り組む背景
背景にあるのは、地方が抱える「労働力不足」と「関わりしろの欠如」という2つの課題です。 特に農繁期における一時的な人手不足は深刻ですが、数日単位で訪れる滞在者を従来の雇用契約で受け入れることは、手続きの煩雑さから困難でした。そこで本事業では、履歴書不要・即時マッチングが可能な「タイミー」の仕組みを導入。「旅行者が、旅の合間に数時間だけ農家を手伝う」という柔軟な働き方を実現し、来訪者を地域の即戦力として活用する道筋を作りました。
スポットワークであれば既存の旅行プランに組み込みやすいこともメリットです。来訪者はその地域ならではの仕事を体験することで、地域の新たな魅力を知り、作業を通して地元住民とのコミュニケーション機会を得ることができます。これは「はたらく」を通じた地域との新しい関わりしろの提示につながるのです。
「観光」から「二地域居住」へ
本プロジェクトの最大の狙いは、国の推進する「二地域居住(デュアルライフ)」の実践者を創出することにあります。 これまでの「観光」は消費活動が中心でしたが、そこに「仕事」が組み込まれることで、人の動きは以下のように変化します。
- 滞在動機の増加:観光が主な滞在動機だったが、働くために滞在することで年間の滞在日数の増加につながる。
- 来訪頻度の向上: 農作業などの季節性のある仕事を通じて、「また次のシーズンも手伝いに来る」という反復的な往来が生まれる。
- 経済的ハードルの低下: 現地で得た報酬を旅費や滞在費に充当できるため、離島特有の交通費コストが軽減され、継続的な来訪が可能に。
このように、スポットワークを媒介として「年間10日以上の滞在」や「反復的な往来」といった二地域居住の実態を無理なく作り出し、佐渡市における持続可能な担い手確保につなげていきます。
働いて、交流して、佐渡市の魅力を深く知る。モニターツアーの概要を紹介
今回の宿泊は、ADDressとも提携しているHostel Perch(パーチ)にて。蔵サウナが有名で、島内外の人たちが訪れる憩いの場です。
Perchのワーキングスペースでは、参加者によるディスカッションを実施。地元の事業者様や有識者、役場の職員にも参加いただき、スポットワークや二拠点居住について話し合いました。自分たちの経験を踏まえた意見が飛び交い非常に有意義な時間となりました。

その後は、地元の方も加わっての懇親会を開催。佐渡島の食材を使って交流を深めました。今回のモニター参加者Kさんは全国各地に赴き、その土地の食材を使ったダイニングを提供する料理人。早速、ご自身のスキルを発揮して皆さんに料理を振る舞ってくださいました。


滞在2日目は、地元の一次産業に「仕事」として携わります。今回のモニターツアーでは、スキマバイトサービス「タイミー」を活用して、株式会社CowCowCompany(カウカウカンパニー)で働くことになりました。カウカウカンパニーは、放牧牛たちが年中のびのびと暮らすことを何よりも大事にしている牧場です。
担当するのは、「牛の糞から作った堆肥を放牧地に散布する仕事」です。この牛たちの暮らしを支えるのが、青々とした牧草であり、その牧草を育てるための土づくり。牛の排泄物が天然の有機肥料として機能し、牧草地の養分循環と土壌改善に重要な役割を果たすので、非常に重要な仕事です。
牧場の成り立ちや牛の特性など色々お話をしながら作業することで、時間もあっという間です。牛との触れ合いもあり、貴重な体験でした。


また、他の一次産業の現場も見学させてもらいました。稲作や柿、リンゴといった果樹を育てる土屋農園では柿畑の水路清掃や剪定作業を体験。別の日には、日本海の豊富な魚を扱う 石原水産の出荷工場や地ビール トキブルワリーのビール工場を見学しました。


このモニターツアーを通じて、「地元佐渡市に根付いた仕事」はもちろん、佐渡市で暮らす人の魅力を深く知ることができました。
モニター参加者アンケート
愛媛県在住・女性:満足度10点満点

佐渡市に来たのは2回目です。前回は主に観光でしたが、今回は実際にその地域で働くことができると聞いて楽しみにしていました。力仕事で筋肉痛になってしまいましたが(笑)、事業者さんが「1人でいつも黙々としていた作業が、みんなが来てくれて楽しい!」と喜んでくださったのは何よりも嬉しかったですね。
京都府在住・女性:満足度10点満点

「地域で働く体験をしてみたい」という思いで今回のモニターツアーに参加しました。料理人をしているのですが、今回の仕事を通じて改めて命の尊さに触れる事ができましたし、現地で生活している人の中に入ることにより、佐渡市を身近に感じる事ができました。今度は、堆肥を撒いた場所の牧草が生えている景色を見てみたいです。
「牧場のファンを増やし、牛のイメージを変えたい」参画事業者様の声
今回のプロジェクトに進んで手を挙げてくれた株式会社CowCowCompanyの代表山田陽介さんにもお話を伺いました。家業の瓦屋を継ぎながら、新潟県内初の通年放牧を実施している山田さん。今回のプロジェクトに参加したのも、単純な「労働不足確保」だけではなく、もっと牛や佐渡市を好きになって欲しいという思いでした。

——これまで牧場を運営する中で、どのような人手不足の課題を感じていましたか?
山田陽介さん(以下、山田さん):私たちのような小規模な牧場では、大きな機械を入れることが難しく、ほとんどの作業を手作業で行っています。本来なら1日かけて一人で黙々とやらなければならない作業も多く、物理的な労働力不足はずっと感じていました。また、佐渡市全体としても、求人を出しても応募が来ない……など、島内の労働力だけでは限界があるという課題もありました。そうした中で、「ただ作業をこなす」だけでなく、外部から新しい風を入れてみたいという思いがあったんです。
——では、本プロジェクトにおいて、具体的にどのような労働力支援や成果を期待されていましたか?
山田さん: 単なる「労働力」としてだけでなく、来てくれた方が楽しんで作業してくれることを期待していました。私自身、牛のイメージを「臭い・汚い・きつい」から変えていきたいという強い想いがあります。外部の方が牧場に来て、牛と触れ合い、仕事として携わってくれることで、そのイメージが変わればいいなと。そして、佐渡のファンや私たちの牧場のファンになってくれたら嬉しいという期待もありました。
——今回、スポットワーカーを受け入れるにあたって現場ではどのような準備や心構えをされていたのでしょうか。
山田さん:実は私自身がすごく緊張しがちでして(笑)。どんな方が来るんだろうというドキドキはありました。まずは「自分たちが牛とどう接しているか」、愛情を持って育てている姿をありのまま見てもらおうと思っていました。
また、「仕事」というよりも、良い意味で「遊びに来たような感覚」で楽しんでもらえる雰囲気作りも意識しました。作業の合間に牛の可愛さについて話をしたり、佐渡の暮らしについて雑談をしたり。コミュニケーションを通じて、単なる作業員と雇用主という関係ではなく、人と人として仲良くなることを大切にしました。牛も人もスキンシップやコミュニケーションが一番大事ですからね。

——実際に受け入れてみて、いかがでしたか?
山田さん:不安はすぐに吹き飛びました!皆さんが嫌な顔一つせず、むしろ楽しんで作業してくれている姿を見て、私自身もすごく楽しく仕事ができました。一人でやれば孤独な作業も、誰かと話しながらやるとあっという間です。「牛ってかわいいですね」「佐渡っていいところですね」と言いながら働いてもらえて、逆にこちらが元気をもらったくらいです。労働力以上の価値を感じました。
——山田さんにとっても素晴らしい体験だったのですね。今回の短期的な就労体験が、佐渡市への定住や、将来的な担い手育成につながる可能性について教えてください。
山田さん:大いにあると思います。実際に牧場に来て、作業をして、「自分もやってみたい」と思ってくれる人が一人でも増えれば成功だと思っています。 佐渡は土地もありますし、牛の放牧なら低コストで始められます。
今回の体験を通じて「一次産業って面白いな」「佐渡でなら挑戦できるかも」と感じてもらえたら、将来的な移住や新規就農のきっかけになるはずです。佐渡を『畜産が楽しい島』にするのが私の夢なので、その仲間が増えてくれたら最高ですね。

——最後に、今回参加された方とはこれからも関係が続きそうでしょうか。また、今後どのような形で佐渡市と関わってほしいですか?
山田さん:ぜひまた来てほしいですし、関係はずっと続いていくと思います。単なる観光客としてではなく、一度一緒に汗を流した「仲間」や「親戚」のような感覚で、いつでも帰ってきてほしいですね。 今後は、こうした働きながら旅をするスタイルが定着して、佐渡のファンが全国に増えていってほしい。そして、また別の誰かを連れてきてくれる……そんな循環が生まれたら嬉しいです。
佐渡市 地域振興部 移住交流推進課 課長 西牧孝行様のコメント
年間約90万人の人口減少が進むなか、東京一極集中が再燃し、地方間での移住者獲得競争は激化しています。一方で、若者を中心に「ワーク・イン・ライフ」を重視した多様な暮らしへの需要も高まっています。こうしたなか、佐渡市では二地域居住を推進すべく株式会社アドレスと連携してきましたが、本事業の「住む」とタイミーを活用した「働く(農林水産業等のマッチング)」を融合させた仕組みは、労働力不足の解消と深い地域交流を同時に実現するものです。労働と交流の相乗効果による関係人口の深化に、強い期待を寄せています。