タイミーで出会った第二の故郷。人口3,533人の只見町に移住を決めたのは、甘いトマトと住民の温かさだった

タイミーで出会った第二の故郷。人口3,533人の只見町に移住を決めたのは、甘いトマトと住民の温かさだった

好きな時間に、好きな場所で働くことができるスポットワーク。スキマバイトサービスであるタイミーにおいても、都市部だけではなく日本全国、さまざまな地域で広がりを見せています。自分の都合の良い時間に働けるという利便性から、旅行先で働いてみたり、少し遠方に赴いてみたりと、給料以外の働く魅力に出会っている人も多いようです。しかし、「うちの地域でスポットワーカーを募集しても人は来ないだろう」と思う方もいるかもしれません。

日本有数の豪雪地帯でもある、福島県南会津の只見町には、タイミーを通じて働いたワーカーさんが、何度も何度も足を運んでしまう不思議な魅力があるんだそう。

そこで今回は、収穫の繁忙期にタイミーを活用しているさんべ農園の代表を務める三瓶陽太さん、そしてタイミーを使ってさんべ農園で働くワーカーさんお二人にインタビューを行いました。タイミーを通じて働くうちに移住を決めた十文字さんと、不動産業の傍ら副業としてさんべ農園で働く田尻さん。なぜ時間をかけてまで、只見町にさんべ農園に通うのか……。

人口3,533人の町、只見町でたくさんの「関係人口」が生み出されている理由に迫ります。

有限会社さんべ農園

福島県只見町で米と南郷トマトを生産。農作物のほか、米水あめやチョコレート、青トマトジュースなどのオリジナル商品や米焼酎ねっかを販売している。

http://sambe-farm.jp

トマト栽培は管理に時間をかける分、収穫は人手を集めて一気に行う

——まずは、さんべ農園について教えてください。

三瓶陽太さん(以下、三瓶さん):さんべ農園は、南郷トマトをブランドにし、南会津郡を100年続く南郷トマト産地にしたいと親父の代からスタートしました。ちょうど祖父の時代に「南郷トマトを南会津郡の特産品に」という動きがあって、その想いを受け継いだわけです。一昨年、自分がさんべ農園の代表となり、経営全般を任せてもらうようになりました。現在は、トマトと米を栽培している他、米焼酎ねっかや青トマトジュース、チョコレートの製造・販売などを展開しています。

有限会社さんべ農園 代表 三瓶陽太さん

有限会社さんべ農園 代表 三瓶陽太さん

基本は家族経営になりますが、夏の繁忙期にはワーカーさんを含めた14名ほどで作業を行っています。これまでは、忙しくなったら知り合いに声をかけて手伝ってもらって、反対に自分たちも手伝いにいって……と、お互い助け合いの精神で人手を確保していましたが、高齢化や少子化も進み、人口減少が続く中でそれも限界を感じていました。そんな中でタイミーのことを知って、うちでも使ってみようと思ったんです。

——ワーカーさんにはどのような仕事をお願いしているのですか?

三瓶さん:基本的にトマトの収穫業務をお願いしています。収穫のスケジュールが確保でき一気に作業することで、管理業務に時間をかけることができるんですね。トマトの質を決めるのは、管理業務にかかっていると言っても過言ではありません。例えば、蜂による受粉がうまくいかないと、我々人間の手で受粉する必要があるし、誘引や芽かきなど美味しいトマトを育てるためには、手間暇をかけなければなりません。だから、収穫作業はできる限り効率よく短期間で終えられるようワーカーさんの力を借りています。

それで、タイミーをきっかけに働きにきてくれたのが、十文字くんと田尻さんなんですよ。

田尻 聡さん(以下、田尻さん):初めて作業したときに、こんなに青いトマトを収穫していいのかってびっくりしましたよ(笑)。

写真が趣味の田尻さん。収穫時の写真を見せてくれました

写真が趣味の田尻さん。収穫時の写真を見せてくれました

三瓶さん:トマトは収穫するとすぐに追熟で赤くなっちゃうから、収穫はスピード勝負なんです(笑)。

移動時間がかかっても、只見町に働きにくる理由

移動時間がかかっても、只見町に働きにくる理由

取材したのは3月。まだ雪が残っていました

——では、タイミーをきっかけに移住を決めた十文字さん、本業の傍ら遠方から働きにくる田尻さんにお話をお伺いします。まずはお二人のご経歴とさんべ農園で働こうと思った理由を教えてください。

十文字 祐真さん(以下、十文字さん):僕は高校卒業後、海上自衛隊に入隊しました。自衛官候補生として3年間働いていたんですが、そこで携わった調理の仕事を本格的に極めたいと思ってゴルフ場のレストランスタッフに転職しました。けれど、職場の人間関係が悪くて楽しみながら働くことができない状態が続いてしまって。念願の仕事だったのに泣く泣く退職することにしました。もともとタイミーはCMで知っていたので、「転職活動の合間に利用しよう」と運送会社で働いていたのですが、たまたまさんべ農園の募集が目に留まり、時給も高いしちょっと働いてみようと思ったのがきっかけです。

田尻さん:現在は住宅営業の仕事に就いていますが、これまで不動産業の他、現場仕事などさまざまな経験をしてきました。実は十文字くん同様、料理人だったこともあるんですよ。不動産は火曜・水曜が休みなんですが、パートナーが親族の介護の関係で遠距離に住むことになり、休みにひとりでいても暇で落ち着かなくて。タイミーで副業することにしました。そのためお金を稼ぎたいという目的というよりかは、「その日に稼いだお金は、その日の飲み代に使う」をポリシーに働いていた感じです。あと、ドライブが趣味なので、あえて自宅から遠いところで働いたりしています。流石に火曜に日光のホテルで働いて、次の日軽井沢のゴルフ場で働いたときはしんどかったですけど(笑)。

ワーカーの田尻聡さん

ワーカーの田尻聡さん

——その中で、さんべ農園はどのように知ったのですか?

田尻さん:いつものようにアプリを眺めていたら、偶然発見しました。ずっと遠くの働き先ばかり選んでいたので、特に違和感なく行こうと思ったんですよね。農業に興味を持ったのはもちろん、「シャワー施設、簡単なトレーニング施設がある」ってところに興味を持ちました。そんな募集はなかなか見かけなかったので。

三瓶さん:トレーニング設備、いまだ誰も使ってくれないんですよ。

十文字さん:収穫の仕事をした後に、筋トレは無理ですって(笑)。

談笑中

——お二人とも一回きりではなく、移動に時間をかけながらもこれまでに7〜8回とリピーターとして只見町まで働きにいらっしゃったわけですが、それはなぜですか?

十文字さん:僕、学校は総合学科で農業に触れてこなかったですし、本当はすごく虫が苦手なんですけど(笑)、農業がとても楽しかった。調理人を目指していたこともあって、農作物に触れられたことも大きかったと思います。

田尻さん: 作業して間も無く、「ごはんどうしますか?」と聞かれて、不思議に思いましたが、お母さんたちがおにぎりを用意してくださったんですよ。「あれ?賄い付きの求人だっけ?」とびっくりしたのを覚えています。それからは、毎回の楽しみのひとつです。

さんべ農園が用意してくれた朝食 ※田尻さん提供写真

さんべ農園が用意してくれた朝食 ※田尻さん提供写真

三瓶さん:朝の6時から働いて、8時の休憩のタイミングでみんなで食べるんですよね。やっぱり遠方からわざわざ働きにきてくださってるわけじゃないですか。すぐ近くにコンビニもなかったりするので、お腹空かせてるんじゃないかなと。

田尻さん:とっても美味しかったです。汗を流して働いて、おにぎりやつきたてのお餅などのお母さんたち手作りのごはんをいただいて。帰りには規格外のトマトをたくさんいただきました。青いトマトがこんなに甘いなんて知らなかったです。

——ちなみに三瓶さんとしては、タイミーを使うことに抵抗はなかったのでしょうか?

三瓶さん:うちは中学生の体験学習を受け入れてるんですよ。中学生が収穫できてるんだからみんなできるでしょうっていう気持ちでした。もちろん教える手間は発生するかもしれないけど、横についてもらって自分の作業を見てもらって覚えてもらうだけなのでそんなに負担がないんです。むしろ、皆さん楽しいと思ってくれるのか、どんどん進めていっちゃうんですよね。非常に助かっています。

逆に僕らが募集を出しても、人が来てくれるわけないって思ってました。わざわざこんな山奥の人口も少ない町にって。そしたらみんな遠方から来てくれて驚きました。時間をかけて来てくれるわけですから、僕らとしても最大限にもてなしたいんですよね。たとえ次につながらなかったとしても、「只見町という場所を知って、触れてもらったこと」自体がありがたいという気持ちでいっぱいなんです。

——だから自然とおにぎりを提供したり、シャワー室を用意したり……、ワーカーさんへの感謝の想いがGood率100%につながっているのですね。

タイミーきっかけに町の良さを知り、移住を決意できた

——十文字さんにお伺いしたいのですが、なぜ只見町に移住を決めたのですか(取材日がちょうど住民票を移した記念の日だったそう!)?

十文字さん:只見町には山も湖もあるし、自然豊かなんです。もともと自然が好きだったこともあって、タイミーで只見町を訪れるたびに「ここに住みたいなぁ」って漠然と思っていました。

ワーカーの十文字 祐真さん

ワーカーの十文字 祐真さん

でもそれ以上に「人の温かさ」に惹かれたのが大きかったと思います。前職の人間関係に悩んだ経験がありどこかに就職することが怖かった部分もありましたが、「さんべ農園の皆さんは、なんでこんなに素敵な人たちばかりなんだろう」と感動したんですよ。仕事に失敗すると怒られるのが当たり前ですが、ここではまず自分を受け入れてくれる。それに、たくさん話しかけてくださって、自分を知ろうとしてくださる姿勢が嬉しい。飲み会やバーベキューも開催してくれて自分たちを招待してくれるんですよ。「移住すれば?」と言ってくださったのも陽太さんでした。

三瓶さん:十文字くんと話すうちに「そろそろ転職活動に本腰を入れたい」「一人暮らししたい」って言ってたので、「じゃあこの町に住んで働けばいいじゃん」って誘いました。町には、特定地域づくり事業協同組合制度を活用した「 只見働き隊事業協同組合」があります。我々はどうしても繁閑の差が激しいので、長期雇用は難しい。でも、この仕組みを使えば、花の出荷シーズンになる春は花屋に、収穫が忙しい夏は農家に、スキー客で賑わう冬は旅館に……と、小さい町でありながらもいろいろな仕事を体験することができます。町を知ってもらいながら自分の適性を生かした仕事を見つけてもらうことができるんですね。もし農家に興味を持ったのであれば、町の支援もありますし僕らだってサポートできますから。

十文字さん:僕は自衛隊で大量調理をしていた経験もあるので、「只見町交流促進センター 季の郷 湯ら里」の厨房もいいんじゃないかって言ってくださるんです。意外と選択肢が多く、何をやろうかとワクワクしています。「住まいはどうしよう」って考えたこともありましたが、陽太さんの仕事仲間が住居をあっせんしてくださって。昼間は自然を楽しみつつ、夜は趣味のゲームに集中できる自分の環境を作ることができました。最初は移住なんて難しいと思っていましたが、周りの温かなサポートのおかげでスムーズでしたね。頼ることができる方がいることが大きかったです。

三瓶さん:うちの町はみんないい意味でおせっかいな人が多いですからね。そんな人間関係の近さが嫌でなければ、只見町は住むのに適している環境だと言えます。そういう意味では、タイミーを通じてまずは一度仕事を体験してみて、町に、僕らに触れてもらうことは良いきっかけになるんじゃないかと思います。

バーベキューや飲み会など定期的に開催される ※田尻さん提供写真

バーベキューや飲み会など定期的に開催される ※田尻さん提供写真

——タイミーを通じて働くうちに「ここに住みたい」という気持ちが醸成され、周りの支援もあって移住を実現されたのですね。

田尻さん:実は僕も「只見町にどうやったら移住できるか」を考え始めています。本業は一度に扱う金額も大きく、日々プレッシャーと闘っています。そんなときにさんべ農園を知って只見町に訪れてみると、広大な自然の中でストレスから解放されたような気分になったんです。タイミーで働く日は、三瓶さんの家に前泊させてもらって、朝自然の中を散策して、その傍らで素敵な風景を撮影して、とてもリフレッシュできました。水戸市に住んでいる僕にとって、只見町にくるには時間もコストもかかります。休みの日に時間をかけてでも只見町に来ているのは、本来の自分を取り戻すためなのかもしれません。いつか僕もこの町に住めるように、パートナーを連れてきて絶賛アピールをしています。

只見町にタイミーハウスを作りたい 〜関係人口創出を目指して〜

只見町にタイミーハウスを作りたい 〜関係人口創出を目指して〜

——では最後に、皆さんが今後したいこと、やってみたいことを教えてください。

十文字さん:先ほども話しましたが、僕はこれから只見働き隊事業協同組合員として働くので、ここでしか体験できないような仕事に挑戦したいと思っています。やっぱり移住を決めたからには、いずれ独立して農家になるのもいいんじゃないか、と考えることもあります。僕はこれまでの経験から「飲食を盛り上げたい」という気持ちが強いんです。そのためにもまずは「良い作物を届ける」ことが重要じゃないかと思うようになったのは、さんべ農園で働いたから。派遣としていろんな場所で働きながらも、さんべ農園さんの仕事はお手伝いしていきたいですね。せっかくなので近くで農業のイロハを学べたら嬉しいです。

田尻さん:さんべ農園で働いたことでトマトの本当の美味しさに気付きました。僕はイタリアンの調理人だったので、会津地鶏と南郷トマトを使って、焼き鳥とピザを提供するお店ができないかなって考えています。只見町で実現できたらいいですね。

三瓶さん:タイミーを通じて募集したことでさまざまな場所から働きに来てくれる人がいることに驚きました。自分の仕事を終えてから飲み会に参加するためだけに2時間かけて来てくれるワーカーさんもいるんですよ。

飲み会にて。介護職をやりながら2時間かけて働きにくるワーカーの坂内さん(写真中央)

飲み会にて。介護職をやりながら2時間かけて働きにくるワーカーの坂内さん(写真中央)

ただ一方で、移動中に何か起こらないかと不安を感じることもあります。ですから、少しでも只見町っていいなと感じてくれたワーカーさんたちが住める「タイミーハウス」を作るのも面白いんじゃないかと。皆さん「車中泊しますよ」って言ってくれるんだけど、安心安全に町を楽しんで欲しいですからね。夏は長期休暇の学生さんが利用したっていい。ワーカーさん同士の交流も増すだろうし、町と連携してできないかなと構想を膨らませています。

より近い未来としては、タイミーを通じて働くことで、うちの商品を知ってもらって、南郷トマトや米焼酎ねっかを好きになってくれる人を増やしていきたいですね。やっぱり観光だけではわからない町の良さを知ってもらうには、一緒に働くことも重要なんだと実感しました。まずは、只見町の事業者にもっとタイミーを活用してもらい、関係人口を増やして町を盛り上げていきたいですね。

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