
黒潮と瀬戸内海が交差する豊後水道に面しており、年間350種以上の魚が水揚げされる「九州屈指の水産大国」として知られている大分県佐伯市。しかし現在は人口減少に伴う人手確保にどこも頭を抱えている状況です。「身内や知り合いに働きに来てもらう」——これまで通用していた当たり前が崩れているのは、一次産業に共通する課題です。
この停滞感を打破すべく、トラフグの陸上養殖を営む髙瀬水産有限会社の取締役・髙瀬温大さんは、スポットワーク求人アプリ「タイミー」の導入を決断。単なる「人手不足の補填」ではなく、その先に「長期採用」と「経営のアップデート」を見据えた戦略的な一手でした。

「まずはやってみる」という若き後継者の決断が、いかにして産地に新しい風を吹き込んだのか。取締役の髙瀬温大さんと、タイミーをきっかけに佐伯市へ移住・入社を決めた幸田大輝さんに話を伺いました。
「後継者はいる、だが共に働く仲間がいない」地域全体が抱える従業員不足の壁

——まずは髙瀬水産の歴史と、現在の地域が抱える課題について教えてください。
髙瀬温大さん(以下、髙瀬さん):当社はトラフグの陸上養殖を中心に、定置網漁や加工卸など幅広く展開しています。私はもともと銀行員でしたが、数年前に「会社を売却しようと思っている」という父の言葉を聞き、家業を継ぐ決意をしました。
この街に戻ってきて感じたのは、地域全体の人手不足です。今の50〜60代がバリバリ動いていた頃は地域のつながりも強く活気もありましたが、現在はどの会社も自社を回すのが精一杯という状況にありました。
ただ、希望がないわけではありません。私のような世代の後継ぎ候補は、実は着実に地域へ戻ってきています。直面している課題は、その周りを支える従業員が全く集まらないこと。今はどこの会社も、「働きたい」という人が来ればほぼ100%受け入れられるほど、深刻な人手不足に陥っているのが実情です。
——養殖業においても人手の波はあるのでしょうか?
髙瀬さん:ありますね。暇な時期に従業員がいたら「人件費がもったいない」という考えが根付いているかもしれません。一次産業でも機械化が進んでいますが、最後は人の手で仕上げないといけないので、どうしても人手は必要です。僕はどちらかと言えば、忙しい時に合わせた人数の確保をして、人が余るんだったら新しいことにチャレンジしようという考え方です。当社は正社員が10人と比較的多いとは思うんですが、それでも人手が足りないと既存の従業員に負担が集中し、新しい挑戦をする時間が作れません。
僕自身、今後は本業だけでなく新しい分野に飛び出したいと思っているので、自分に近い存在の人をたくさん作っておきたいんです。人がいなければ最低限のことしかできないのは、ビジネスとしても非常にもったいないと思っています。そのため「現場のゆとり」を生むための安定した人員確保が不可欠でした。
——それでタイミーを導入されたのですね。数ある従来の採用サービスの中で、タイミーの決定打は何だったのでしょうか。
髙瀬さん:4月上旬から始まる「フグの歯切り(※)」の募集のためにタイミーを利用しました。これは一気に終わらせる必要がある流れ作業で、一人欠けると全体が回らなくなります。しかし、歯切りは水温や魚の状態を見て予定が変動しやすく、「よし、明後日やるぞ」と急に決まるのが一般的。求人広告を出したり、親戚に声をかけたりしても、これまでは急に人を集めることは困難でした。
(※)養殖トラフグのストレス軽減や共食い防止のため、鋭い歯をニッパーなどで短く切る作業

でも、タイミーならスポットですぐに求人を出すことができます。1、2時間で終わる作業のために来てくれる人はなかなか見つかりませんが、スキマバイトアプリならマッチングする。実際、打ち合わせから掲載、マッチングまで1週間で完結しました。このスピード感は他にはない魅力ですし、水産業での人材確保にマッチしていると思います。
——高級なトラフグを、初めて来た人に任せる不安はありませんでしたか?
髙瀬さん:「任せられる範囲」を明確にしています。トラフグはデリケートで高価な魚ですが、エサやりなどの作業は、決まった量を決まった池に運ぶという形に平準化できているので、段取りさえしておけば誰でもできます。もちろん生き物なので、魚の体調の変化を感じ取るような「勘」が必要な場面もありますが、それは僕らが判断すればいい。標準化できる作業を任せることで、僕自身の「考える時間」を作ることができています。
それに「どんな人が来るか分からない」という点も、私にとっては不安ではなく「新しい出会いへのワクワク」でした。私は人に払うお金を単なるコストと考えたことは一度もありません。それは、自分自身の時間を確保し、次の事業へ動くための「経営的な投資」だと捉えています。
だからこそ、まずはタイミーを通じて多くの方に現場を体験してもらい、その中から将来の仲間を探す。スピーディーに人員を確保しつつ経営の機動力を高めることが、導入の大きな狙いでした。
もちろん、父の世代にとって、スポットワークはまだ未知のツールです。でも、私は「自分ともう一人の担当者で全責任を持つから、まずは一回やってみよう」と伝え、現場に負担をかけない覚悟で進めていきました。
「お試し」から「正社員」へ。仕事の本質が見える現場ではたらく強み
——ワーカーさんの中から、実際に正社員採用に至ったのは驚きです。幸田さんはどうして髙瀬水産のスキマバイトに申し込んだのですか?
幸田 大輝さん(以下、幸田さん):タイミーを使い始めたきっかけは、実家の飲食店で皿洗いの募集に活用していたことでした。親から「こんなサービスがあるよ」と聞き、強く勧められたのが最初ですね。

実は専門学校を卒業するタイミングで、就職を考えた際に何の仕事に就けばいいのか分からず、かなり悩んでいました。そんな私に、親が「タイミーなら1日単位でいろいろな業種を経験できる。まずは試してみて、自分が本当に『働きたい』と思える場所を見つければいいんじゃないか」と背中を押してくれたのです。
——「お試し就業」をキャリア探しの場として活用されたのですね。
幸田さん:あとは、体力面もありました(笑)。学校の3年目は試験勉強漬けで全く体を動かせなかったので、落ちてしまった筋力を戻しながら、しっかり稼ぎたいなと思ったんです。引越しの仕事を経験する中で、父親から髙瀬水産さんの募集を教えてもらいました。水産業には「きつい」「怖い」「汚れる」という、いわゆる3Kのイメージがあったのは事実です。でも「魚に触れるかもしれないし、餌やりなら楽しそう」「きつくても2日は頑張ろう」という軽い気持ちで、申し込むことにしました。
——実際に髙瀬水産で働いてみて、当初抱いていたイメージからの変化はあったのでしょうか?
幸田さん:全く変わりました。確かに体力は使いますが、それ以上に温大さんが丁寧に仕事を教えてくれたのが大きかったです。スポットで働いているだけの自分に対しても、一人の人間として向き合ってくれるのが印象的でした。作業に慣れていくうちに「上手にできたね」と褒めてもらえたり、質問にも一つずつ答えてくれたり。魚の知識が増えていくことが純粋に楽しかったですね。
髙瀬さん:水産業は1回来てもらうと、意外とハマる人がいるんです。彼はもともと釣りが好きで魚に興味があった。多くの人に陸上養殖を体験してもらおうと思ってタイミー上で求人を出したのですが、彼のような人材に出会えました。

——髙瀬水産がワーカーさんを受け入れるにあたって、何か意識されたことはあったのですか。
髙瀬さん:現場では「生き物を扱っている」という実感を大切にしてほしかったので、餌やりをお願いする際も「この魚が大きくなったら、ミシュランのレストランへ行くんだよ」といった背景を伝えるようにして、仕事内容に興味を持ってもらえるよう意識していました。
——その後、幸田さんから「長期で働きたい」という申し出があったそうですね。幸田さんが、正社員としてはたらくことになったきっかけを教えてください。
幸田さん:ワーカーとして2日ほど働いたあと、アルバイトとして働く中で定置網の選別なども手伝うようになりました。魚を自分で選別できる楽しさから「この仕事をもっとやりたい」と確信し、「社員募集してるんですか?ここで働かせてください」と直談判したんです。
髙瀬さん:タイミーを導入した当初は、20代の若手が来てくれるとは思っていませんでした。幸田くんの動きを見ていて、魚に対して感情を持って接しているのが伝わったんです。機械的に作業するのではなく、楽しみながら向き合っている。その姿勢を見て「ずっといてほしい」と直感しました。
正直、これまでの求人募集や面接だけでは、ここまでの「本質」は見抜けなかったと思います。実際に現場で数日間、共に汗を流し、魚への接し方を間近で見るからこそ確信できる「相性」がある。
最初はスポットワークに懐疑的だった従業員もいたかもしれませんが、幸田くんのような熱意ある若手が入ることで、現場は一気にポジティブな空気に変わりました。タイミーは単なる欠員補充のツールではなく、互いの人間性を深く知った上で、確信を持って採用に踏み切れる「最高の見極めの場」だと感じています。
——幸田さんは、現在はどのような思いで働かれていますか?
幸田さん:まだ入社して1か月弱なので毎日が覚えることばかりで、吸収の連続です。本格的に身を置こうと、佐伯市に移住することにしました。早く仕事を覚えて、髙瀬さんの右腕として一人前になりたい、会社に貢献したい。その一心で毎日現場に立っています。

産地に「ゆとり」と「新しい風」を。スポットワークが描く水産業の持続可能な形
——今後の展望について教えてください。5年後、10年後、髙瀬水産をどのような会社にしていきたいですか?
髙瀬さん:一次産業は自然や生き物が相手なので、どうしても景気動向や環境の変化に左右されやすく、先が読めない変動が大きい仕事です。しかし、私はこれをできるだけフラットにして、安定した経営基盤を作りたいと考えています。
そのために最も大事なのは、やはり「人」なんです。少ない人数でギリギリまで追い込んで作業をするのではなく、あえてゆとりを持って人を採用する。1日の中に1〜2時間でも「自分で考える時間」を作ることができれば、新しい加工品の研究や、販路の開発といった「攻め」の動きができるようになります。この「ゆとり」こそが、会社の成長には不可欠だと思います。

——その「ゆとり」を作るための入り口が、スポットワークなのですね。
髙瀬さん:はい、そのスポットワークは若い人たちにもリーチしやすいと思っています。ただ、私は彼らにこの仕事の技術だけを教えるつもりはありません。仕事の進め方や考え方といった「一般論」も含めて、一人の人間として成長できるように向き合っています。
今の若い世代は、「何をしたいか」と同じくらい「誰と働くか」「誰についていくか」を大切にしています。だからこそ、経営者である私自身が人間味を持って、彼らの本質を深掘りしていく必要がある。幸田くんのように「ここで働きたい」と言ってくれる人を一人ずつ増やしていくことが、結果として魚のプロダクトバリューを高めることに繋がると信じています。
——「スポットワークって良さそうだけど、わからないからやめておこう」と躊躇している同業者の方も多いかもしれません。
髙瀬さん:いわゆる「わからないからやめようマインド」が一番もったいないですね。水産業や漁村こそ、新しいプロダクトをどんどん試すべきです。働き手と現場のミスマッチをなくし、効率化を進めることで、経営者は「未来への投資」に時間を使えるようになります。
幸田くんのような熱意ある若者が活躍できる場を増やすことこそ、産地の維持には欠かせません。「よく分からないから」と門戸を閉ざすのではなく、まずは一歩踏み出してみる。そのスピード感が、これからの一次産業には必要だと強く感じています。
