- 金融マンから役場職員へ、異例のキャリア。人手不足問題との痛切な出会い
- 「渡りに船」だったタイミーとの出会い。全産業の課題解決を目指し、6者連携に込めた熱き思い
- タイミー活用によって広がる可能性と洞爺湖町の未来
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北海道の南西部、支笏洞爺国立公園内に位置する自然豊かな洞爺湖町。2006年に虻田町と洞爺村が合併し、「洞爺湖町」が誕生しました。2008年には主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)が開催されたことでも有名です。
2024年8月に洞爺湖町とタイミーは、包括連携協定を締結しました。本協定では、洞爺湖町商工会、とうや湖農業協同組合、いぶり噴火湾漁業協同組合、一般社団法人洞爺湖温泉観光協会の合計6者連携となっており、各産業でスポットワークを活用することで、年間を通じての雇用機会創出を目指していきます。
今回は、タイミーにとっても全国初となる6者連携協定の立役者である、洞爺湖町 経済部 産業振興課 課長の仙波貴樹さんにインタビューを実施しました。洞爺湖町の潜在的な課題に対してどのような取り組みを行っていくのか、お話を伺います。
http://www.town.toyako.hokkaido.jp/
金融マンから役場職員へ、異例のキャリア。人手不足問題との痛切な出会い
——はじめに、仙波さんのご経歴について教えてください。大学卒業後すぐに洞爺湖町に入職されたのでしょうか。
仙波貴樹さん(以下、仙波さん):実は大学卒業した1995年から4年間は金融機関で働いていました。その後金融危機の煽りもあり、縁あって1999年4月に旧洞爺村役場(現:洞爺湖町役場)に入庁。それ以降、住民課、教育委員会、税務財政課、防災課など、さまざまな部署を経験してきました。
特に印象に残っているのは、防災課ですね。洞爺湖町は2000年に有珠山噴火による噴火災害に見舞われた町なので、いつ何時も気を許すことができない日々を送っていました。
このように、入庁からずっと「住民の皆さんの過ごしやすさ」を第一に考えて仕事をしていましたが、現職である産業振興課への異動は、私にとって大きな転機となりました。
——大きな転機とは、具体的にどのようなことでしょうか。
仙波さん:まずは「対応する相手」が変わったことです。これまでは困りごとでいらっしゃる町民の皆さんに対して法令に基づいて案内するという仕事のスタイルでしたが、産業振興課では対峙する相手は町の事業者の皆さん。どのようなことを要望されているのか、どのように対応していけばいいのかなど、行政としての公平性も確保しながら、事業者の皆さんの状況を聞いて支援策を考えるという、これまでとはまったく違う筋肉が求められるため非常に苦労しました。
さらに言えば、私の出身は室蘭市。生まれながらの洞爺湖町出身者ではありません。これまで洞爺湖町の漁業、農業、観光などの事業者との接点がほぼありませんでした。産業振興課では、自分で動いて関係を作り、事業を起こしていく必要があります。
そこで、漁業をはじめとする各産業の事業者の方たちに会いにいき、現場の声を吸い上げることからスタートしました。もしかしたら、産業振興課の歴代の課長の中で、一番漁協港に通ったのではないでしょうか(笑)。
——まずは足を運ぶことに専念されたのですね。事業者の声としてどのような要望がありましたか?
仙波さん:さまざまな関係者とディスカッションし、現場を見せていただく中で目の当たりにしたのは、繁忙期における深刻な人手不足という現実でした。
洞爺湖町では、虻田漁港を基盤にホタテ養殖業が盛んで令和6年度のホタテ漁獲量は3,101トンになります。耳吊りと呼ばれる手法を用いていますが、「耳吊りをする人が年々いなくなって大変だ」という切実な声が寄せられていたんです。商工会からも人手不足解消に向けた行政支援を求める要望が上がっており、この問題は町全体の喫緊の課題であると痛感しました。
これまで、役場職員として人口減少や少子高齢化の状況はなんとなく認識していましたし、役場職員の募集してもなかなか人が集まらない状況も肌で感じていたのは事実です。しかし、さまざまな事業者の方と話す中で、どこもかしこも働き手が足りないという現実を目の当たりにし、改めてその深刻さを身に染みて感じました。
「渡りに船」だったタイミーとの出会い。全産業の課題解決を目指し、6者連携に込めた熱き思い
——洞爺湖町も人口減少の影響を受け、どの産業においても働き手が足りていないという課題にぶつかっていたのですね。
仙波さん:そうですね。洞爺湖町だけではなくどの地方においても同じ問題を抱えていると思いますが、やはり田舎における若手の人材不足は深刻です。子供が生まれたとしても、その地方にずっといるわけではないんですね。北海道で言えばみんな札幌市に出ていってしまう。一方で、洞爺湖町はいろんな産業がありますから、働き手の奪い合いが起きてしまいます。また、農業・漁業・観光業という傾向から繁閑期の差も大きいため、年間通じて雇用することが難しい場合もあります。
そこでタイミーのようなスポットでの働き方を推進することを考えました。事業者にとっては繁忙期に絞って人手を確保できますし、フルタイム勤務は難しいもののスポットなら働ける層を掘り起こすことができるのではないかと。
——深刻な課題を踏まえて新たな兆しを見つけた仙波さんは、どのような行動に移されたのでしょうか。
仙波さん:当初、国の特定地域づくり事業協同組合制度の活用を検討したこともありましたが、洞爺湖町の産業規模や求められる人員数を考慮すると、この制度だけでは根本的な解決には至らないと判断せざるを得ませんでした。
そんな八方塞がりの状況の中でたまたま見つけたのが、近隣のニセコ町・倶知安町がタイミーと連携協定を結んだというニュース。「これだ!」と思いましたね。
地理的にも人口規模的にも同じような町が取り組んでいるのなら、うちでもできるのではないかと確信したのを覚えています。そこで、直接ニセコ町の担当の方にお電話をし、いろいろ教えていただいて。するとすぐにタイミーのご担当者(当時)である石黒さんからお電話をいただきました。驚いたのがそのスピード感。その2日後には直接お会いして、まさにトントン拍子に話が進んでいきました。石黒さんも最初から協定締結を前提に話を進めてくれたので、まさに“渡りに船”という状況でした。
——そこからどのようにして6者連携につながっていったのでしょうか。
仙波さん:まずは町長や副町長をはじめとするトップの理解を得ることを率先してやりましたね。商工会長に話を持っていくと非常に好意的な反応を示してくださったんです。洞爺湖町は、農業、水産業、観光業など多様な産業において人手不足に頭を悩ませている状態だと先ほどお伝えしましたが、あらゆる手段を試していたものの、なかなか成果に結びつかなかった。新たな解決策への期待は大きかったのでしょう。さらに、町内には既にタイミーを利用している宿泊施設や土産物店なども存在し、民間サービス導入への心理的なハードルが比較的低かったことも追い風となりました。
もちろん、タイミーと連携協定を結べばすべて解決するわけではありません。しかし、何よりもまずはやってみることが大切ですからね。石黒さんとの初対面となった6月頭から、協定締結に至った8月20日まで、わずか2か月という行政手続きとしては異例の速さでプロジェクトを進めることができました。
——タイミーとの連携協定では、商工会をはじめ、とうや湖農業協同組合、いぶり噴火湾漁業協同組合、一般社団法人洞爺湖温泉観光協会、そして洞爺湖町という、まさに町をあげた連携の形をとられましたね。
仙波さん:洞爺湖町は、農業あり、水産あり、観光ありと、町自体はそれほど大きくありませんが、さまざまな産業が詰まった町です。そして、その全産業で人手不足が深刻化し、町内での人材の奪い合いすら起きている状況でした。それならば、みんなを巻き込んで、全産業でこの課題に取り組むべきだと考えたのです。
個人的に注力したいと考えていたのが、小規模な事業者への支援でした。例えば漁業分野では、ホタテの耳吊り作業など、特定の時期に集中的かつ大量の人手が必要となります。資金力のある大手事業者は外国人技能実習生の受け入れや高価な自動化機械の導入で対応できるかもしれません。しかし、家族経営に近い小規模な漁師にとっては、それらのハードルは非常に高いのが現実です。人手が必要な時に、必要な期間だけ募集ができるタイミーのようなサービスこそ、規模の小さい漁師さんにこそ使ってもらいたいんです。多くの事業者の方たちに知ってもらい、使ってもらうためにも、各産業と協業しみんなで取り組む必要があると考えました。
——6者連携はステークホルダーも多いため、調整が難しい印象があります。この大規模な連携を実現する上で何か意識されたことはあったのでしょうか。
仙波さん:私自身に何かすごい力やスキルがあったわけではありませんが、産業振興課に異動してきたときから「事業者や関係団体との良好なコミュニケーション」を心掛けたことが良かったのかもしれません。異動当初は誰も何も知らない・わからない状態でしたから、顔を売るしかなかったんです。とにかく現場に足を運び、直接ご意見や要望を聞き出していました。
——今回の6者連携という前例のない取り組みに対する各団体の理解と協力を得る上で、地道な関係構築が何よりも大きな力となったのですね。
仙波さん:あとは、漁業や農業のような専門性の高い職種においては、行政からの依頼よりも実際にサービスを利用した事業者間の口コミが非常に説得力を持ちます。ですから、我々のような外の人間が『このサービス良いよ』と言うよりも、実際に使った仲間内での評判が広がっていく方が、はるかに効果的です。
そこで、直接町長や商工会長に働きかけると同時に、タイミー利用事業者さんにメリットを伝えてもらうなど、外から中からと賛同者を増やしていきました。さらにたまたまですが、議会の一般質問でも町の人手不足問題が取り上げられ、タイミーの必要性を町全体に訴える絶好の機会にも恵まれました。決して自分だけの力ではなく「タイミングと人に恵まれた」ことが大きかったのだと思いますね。
タイミー活用によって広がる可能性と洞爺湖町の未来
——タイミーとの連携協定締結後、どのような変化が生まれましたか?
仙波さん:既に町内の宿泊施設や一部のコンビニエンスストアなどではタイミーが積極的に活用されています。中にはタイミーを通じて働いたワーカーが正規職員として採用されるという喜ばしい事例も生まれています。
一方で、漁業分野などでは「毎回新しい人に仕事を教えるのは難しい」といった声や、過去の短期アルバイトの定着率の低さから、導入に慎重な事業者も少なくありません。
そこで、私としてはその声を受け止めながらも、「いきなり10の仕事を求めるのではなく、まずは簡単な作業からお願いし、徐々にステップアップしてもらう」など受け入れ側の仕事の切り出し方やコミュニケーションの工夫も必要ではないかと提案をしています。急には難しいかもしれませんが、新しい働き方に対する意識改革の大切さを感じているところです。
<編集部後日談(2025年5月末時点)>
仙波さんの粘り強い啓蒙活動の甲斐もあり、ホタテ漁を担う「瀬野尾漁業部」でのスポットワーク活用がスタート。洞爺湖町の中でも最大級のホタテ事業者様で5月中旬から、1日5名をタイミーで募集する運びになりました。
実際に、2週間先までワーカーさんとマッチング済み。町外からも多くのワーカーさんが働きにきてくださり、高いGood率を誇っています。
「働いているみなさん明るく優しいです!親方も良い人で気持ちよく働く事ができました。(40代女性)」など、好意的なレビューもたくさん。また町外からのワーカーも多く、洞爺湖町への訪問のきっかけにもなっているようです。
——洞爺湖町ではスポットワーク利用手数料の3分の1を補助する独自の事業も実施されましたね。
仙波さん:初年度は、補助金交付の下限額を1万円に設定したこともあり、利用は5件程度に留まりましたが、その意義は大きかったと思います。実際、補助金の申請には至らなくても、タイミーアプリを覗いてみると、以前より明らかに求人が増えているのが分かります。商工会の理事からは、「良い仕事をしたね」と直接お褒めの言葉をいただいて、昨年度の商工会関連事業のトピックとしては間違いなくナンバーワンだったと自負しています(笑)。この補助事業は今年度も継続することが決まったので、さらなる利用拡大を目指して活動を続けていきたいですね。
ありがたいことに洞爺湖町の取り組みを知った他自治体から問い合わせが増えてきました。皆さんからの期待を裏切らないよう、協定締結がゴールではなく、先進的な事例を生み出していきたいと思っています。
——今後、仙波さんはどのような取り組みをしていきたいと考えていますか?
仙波さん:現在、町では公共交通としてのライドシェア事業を計画中です。洞爺湖町は観光業で栄えてはいますが、高齢ドライバーも多いため夜7時を過ぎるとタクシーがいなくなってしまうという深刻な問題があります。これを解決しなければ、飲食店の活性化も望めません。ライドシェア事業において最大の課題はドライバーの確保であり、このドライバー募集にタイミーを活用できないかと考えています。あるいは役場職員の副業を認め、職員自身がライドシェアドライバーを担うというのもありかもしれませんね。
また、協定締結時から模索しているのですが、役場職員の副業解禁とタイミー活用の可能性を考えています。若い職員の中には、町の事業者の実情を知るために、実際に現場で働いてみたいと考えている者も多くいます。そこで、職員がタイミーを使って働くことは、事業者理解を深めるだけでなく、職員自身のスキルアップや役場組織の魅力向上にもつながるのではないでしょうか。そのためには柔軟な働き方の導入も検討すべきですが、スポットワークによる新しい働き方の構想は広がっていますね。
他には、洞爺湖マラソンや産業まつりなど、町を挙げて開催される数々のイベントにおいて、職員がボランティアとして運営を支えている現状も解決したいと考えています。イベントの準備や当日の運営に、多くの職員が時間外勤務や代休取得で参加していますが、負担も大きく持続可能な体制とは言えません。他自治体の事例も参考にしながら、イベント運営における軽作業などにタイミーを活用することで、職員の負担を軽減し、より効率的で質の高いイベント開催を目指せないかと考えています。
——仙波さんの構想は、スポットワークの新たなモデルケースとなる可能性を大いに秘めていますね。最後に仙波さんは洞爺湖町をどのような町にしていきたいですか?
仙波さん:そうですね。たとえ人口が少なくても、誰もが楽しく暮らせる町にしたいです。そのために、商工会、農協、漁協、そして役場職員組合といった各団体の青年部活動を積極的に支援し、若者が既成概念にとらわれず自由に集い、新たなチャレンジが生まれる土壌を育んでいきたいです。活気のある町というのは、やはり若い人たちが元気で、いろいろな活動をしているところだと思うんです。そうした若者たちの活動を、行政として何かお手伝いしたい。そして、活動を通じて交流人口が増え、移住・定住に繋がっていけば、それ以上に嬉しいことはありません。
——仙波さんの熱意と行動力、そして関係各所を巻き込む卓越したコミュニケーション能力が、洞爺湖町の未来を明るく照らし出していくことを期待せずにはいられません。本日はありがとうございました。