
- 潜在層と未経験層を呼び込む 「新たな潮流」
- 「お試し就労」 が未経験者の心理的障壁を打破
- 相互評価が可視化する「組織の鏡」
- 地方自治体も注目するスポットワークの可能性
- 地域ケアを支える次世代インフラの構築へ
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2035年に向けて、介護需給のひっ迫は加速していく。事業者には、従来の延長線上にない「自衛の努力」が求められる。そうした中、スポットワークは単なる欠員補充を超え、組織のあり方を見直すツールとしても注目を集め始めている。淑徳大学 結城康博教授とタイミー介護福祉事業担当執行役員 山岡和人氏が、介護現場の人材確保・定着を阻む本質的課題を分析し、新たなプラットフォームが拓く次世代の人材インフラの可能性を展望する。
※本記事はシルバー産業新聞(6月10日発行)に掲載された内容の転載になります。
1969年生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒業。法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。1994〜2006年、東京都北区、新宿区に勤務。この間、介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護系の仕事に従事。2007年より淑徳大学総合福祉学部准教授(社会保障論、社会福祉学)。2013年4月より同大学教授。元社会保障審議会介護保険部会委員。現在、千葉県介護保険事業支援計画・高齢者保健福祉計画策定委員会(委員長)。『介護格差』岩波新書。『介護職がいなくなる』岩波ブックレット。『孤独死のリアル』講談社新書。新刊『自分の介護』風鳴舎。他著書多数。
https://www.shukutoku.ac.jp/academics/sougou/fukushi/kyouin/yuuki.html1991年生まれ。2014年、株式会社ディー・エヌ・エー入社。モバイルゲームのグローバル展開を牽引するプロデューサー職を経て、エンターテインメント領域における管理部門の責任者を歴任。2021年、スマートニュース株式会社へ参画。CEO直轄組織にて新規事業の戦略立案や事業計画の策定を主導する。2022年、株式会社タイミーに入社。COO室長、事業戦略本部長、市場開発本部長といった要職を歴任し、2025年11月より現職に従事。
潜在層と未経験層を呼び込む 「新たな潮流」
山岡和人(以下、山岡):本日はよろしくお願いします。先生は、現在の介護分野における人材不足の状況をどのように捉えていらっしゃいますか。
結城康博さん(以下、結城さん):2035年に団塊の世代が85歳の大台に乗る一方で、働き手は減り続け、需給の乖離は決定的となります。正直なところ、現在の制度下で全てのニーズに応えるのは、もはや困難なフェーズに入っていると言わざるを得ません。

他産業との賃金差が解消されない限り、供給不足が加速するのは自明の理です。この厳しい現実を前に、国の方策を待つのではなく、現場レベルでも事業の継続性を高める「自衛の努力」がますます求められます。
山岡:「自衛の努力」。具体的にはどのような工夫が必要でしょうか。
結城さん:一言で言えば、「選ばれる職場づくり」です。残念ながら現在の介護業界では、この視点が不足しています。単に求人を出し、「応募が来ない」と嘆くにとどまる受動的な管理者が少なくありません。
しかし、人手不足に陥っていない事業所も存在します。私の実感では、全体の2割程度ですが、そうした事業所は独自の創意工夫によって人材を惹きつけ、定着させることに成功しています。
当然のことながら、介護従事者も他業種と同様に「より良い環境で働きたい」という強い願いを持っています。こうしたニーズを的確に捉えている事業所は、国の報酬改定に左右されすぎることなく、自立して安定したサービスを維持できています。
山岡:先生が指摘された創意工夫の重要性は、われわれのサービス利用実績からも実感しているところです。タイミーにおける介護分野の募集実績はこの1年で2倍以上に急伸しました。これは、単なる人手不足の穴埋めではなく、スポットワークを戦略的に活用することで、人材確保の手法を積極的に広げようとする事業者の動きが加速している証しだと考えています。
結城さん:なるほど。「自衛のための創意工夫」が、具体的な数字として現れ始めているわけですね。
山岡:はい。スポットワークには、介護人材の母集団を拡大する2つの可能性を備えています。第一に、「潜在有資格者の現場復帰」です。育児等の事情により固定シフトでの勤務が難しく、離職を余儀なくされた方々が、スポットワークという流動性の高い働き方を通じて再び現場へと戻られています。
第二に、飲食や物流など「他産業からの新たな流入」です。多業種を網羅するプラットフォームであるからこそ、これまで介護に接点のなかった層がふとしたきっかけで挑戦する機会を創出できています。これは、流出一方だった従来の介護労働市場に、外部から内部へと向かう「新しい潮流」を生み出す変化と捉えています。
結城さん:おっしゃる通り、そうした人の流れは従来の求人媒体を通じた手法ではなかなか生み出せなかった動きです。潜在層の再接続や他産業からの流入を「お試し」から始められるスポットワークの仕組みは、介護人材の確保における新しいアプローチといえます。単なる募集手段の変更ではなく、採用の間口そのものを構造的に広げた点に、大きな可能性を感じています。
「お試し就労」 が未経験者の心理的障壁を打破
結城さん:特に施設介護などでは、資格の有無に関わらず携われる業務は数多く存在します。介護の仕事に潜在的な関心を抱く層はいるものの、これまでは「まず試してみる」ためのハードルが極めて高かったのが実情です。
従来の採用ルートでは、短期間のアルバイトであっても履歴書の用意や面接が必須で、さらに一度雇用契約を結べば「容易には辞められない」という心理的負担も伴いました。
しかし、タイミーのようなプラットフォームは、ICTの活用でこうした「お試し就労」の手軽さを実現しました。数回働いてみて、自身に合わないと感じれば無理に継続しなくてもよい。
山岡:その通りです。当社の調査では、無資格・未経験者の6割超が「資格がなければ介護現場では働けない」という先入観を抱いていました。しかし、実際にスポットワークを通じて一度体験してみると、自分にできることがあると気づく。不安は解消され、前向きな就業意欲へと変わります。

さらに、残念ながら過去のミスマッチによって、介護の仕事にネガティブな印象を抱いてしまった潜在有資格者の方にとっても、その先入観を塗り替える機会となっています。特定の施設での苦い経験が業界全体のイメージになっていた場合でも、スポットワークで多様な現場を体験することで、「自分らしく働ける場所が他にある」という事実に気づくきっかけになるはずです。
結城さん:現場の人間関係は、統計的にも離職の最大要因として明確に現れていますからね。もちろん賃金水準の向上は不可欠ですが、定着の決め手となるのは、その職場で自己実現が可能か、良好な対人環境かといったことが大きい。スポットワークが、働き手にとって「自身に合った職場を見極めるツール」として機能していることは、ミスマッチを解消し、介護業界をより健全な姿へ導く上でも意義を持つでしょう。
相互評価が可視化する「組織の鏡」
結城さん:私が、特に画期的だと感じているのはスポットワークの「評価システム」です。介護業界に限った話ではありませんが、離職者の多くは本当の退職理由を明かさないまま職場を去っていきます。こうした実情がある限り、経営層が現場の課題や改善の糸口を正確に把握することは困難です。
しかし、外部のワーカーと事業所が互いを客観的に評価し合う仕組みは、組織運営に大きな価値をもたらします。職場の質がデータや生の声として可視化され蓄積されていくことは、現場の管理職にとって、自らのマネジメントのあり方を客観的に省みるための「鏡」となるはずです。

山岡:おっしゃる通りです。例えば、同一企業が運営する複数の事業所でスポットワークを利用していても、長期採用に至る率が全く異なるケースがあります。地域差だけでは説明がつかないほどの顕著な差であり、職場環境や受け入れる体制がいかに人材確保の成否に直結しているかを如実に物語っています。
当社では、こうした「活用に成功している施設」のノウハウを詳細に分析・抽出し、他拠点の管理者へ共有するための勉強会や、現場に寄り添う伴走型のコンサルティングを通じた支援に注力しています。
結城さん:具体的にどのような支援をされているのですか。
山岡:特に注力しているのは、徹底した「業務の分解と可視化」です。多くの介護現場はいまだ属人的な「阿吽の呼吸」に依存しており、マニュアルが整備されていない施設も少なくありません。こうした環境では、新しい人材が組織に馴染むことが難しく、結果として定着の阻害要因となっています。
そこで私たちは、客観的な視点から「どの業務を外部のスポットワーカーに委ねられるか」を明確にします。配膳や清掃、見守りといった周辺業務を切り出すことで、有資格者が本来の専門性を発揮すべき「コア業務」に専念できる時間を創出するのです。
結城さん:その視点は極めて重要です。私の教え子からも、「勤務初日から見よう見まねで入浴介助を任された」といった、現場の窮状を象徴するような過酷な体験談を耳にすることがあります。日々の運営で余裕を欠いた現場では、体系的な教育体制を整える余裕が欠落しているのです。
しかし、スポットワークの導入は、たとえ2時間の就労であっても「何を教え、何を任せるか」というマニュアルの整備を事業所に強く促します。これが結果として、介護現場に根強く残る「職人芸的で、旧態依然とした教育」から脱却し、人材マネジメントの改善を推進させると期待しています。
山岡:実際に、スポットワーカー向けに整備した業務マニュアルが、スポットワークと別ルートで採用された職員の研修にも活用され、役立っているという声も多くいただきます。また、それまで有資格者の採用にこだわっていた施設が、業務分解というプロセスを経ることで、無資格層へも採用の門戸を広げ、安定的な人員確保を実現された事例も増えています。スポットワークの導入が、結果として組織全体の採用力を底上げする契機となっていると感じています。
地方自治体も注目するスポットワークの可能性
結城さん:最近では、地方自治体がスポットワークの活用を推進する動きも出ていますね。
山岡:はい。当社も、昨年度は石川県や富山県といった地方自治体と連携し、人材確保を支援する共同事業を展開しました。都市部以上に深刻な人手不足に直面している地方部において、自治体が期待を寄せているのは、やはり「未経験層の業界流入」です。
地方に行くほど「介護でもスポットワークが使える」という認識が薄い傾向にありますが、行政による情報発信は、プラットフォームとしての信頼性を裏付ける上でも非常に効果的でした。実際に運用を開始すると、募集枠の7~9割が埋まり、マッチングの確度やスピードに驚かれるケースも非常に多かったと感じています。認知と実績の相乗効果によって、「地方でもスポットワークが活用できる」という手応えが地域全体に広がっていったと思います。

結城さん:正直なところ、多くの自治体は人材を確保し定着させるための具体的なノウハウは持ち合わせていません。これまでは現場の努力に委ねてきましたが、地域から働き手が消えれば、介護保険制度の根幹が揺らぎます。自治体の事業計画も実効性を失い、文字通り「絵に描いた餅」となりかねません。
だからこそ、タイミーのように双方向のリアルな評価データを蓄積する民間と手を組み、根拠に基づいた人材政策を打つ。自治体が地域の介護インフラを守るための戦略の一つといえるでしょう。
地域ケアを支える次世代インフラの構築へ

山岡:私たちは、現場の皆様が本来のケア業務に集中できるよう、アプリの利便性もさらに高めていきます。多忙な現場において、いかにストレスなく活用できるか——。その追求と同時に、介護の仕事に魅力を感じたワーカーが着実にステップアップできるよう、教育支援や資格取得の道筋を整えたい。「介護に関わり続けたい」という想いを形にし、一人ひとりの挑戦を支える取り組みを加速させていきます。
結城さん:スポットワークの価値は、単に繁忙時間帯の不足を補う人手の確保だけに留まりません。私個人の見解として、むしろそれは役割の3割ほどで、本質的な意義は介護業界をより働きやすく、魅力的な職場へ変容させていく機能にこそあると考えます。
タイミーに蓄積された膨大な成功事例やエビデンスを、ぜひ研修やシンポジウムを通じて広く還元していただきたい。各事業所がマネジメントの重要性を再認識し、組織をアップデートし続けることができれば、たとえ厳しい環境下であっても、地域ケアの基盤を維持し、一人でも多くの利用者を支え抜く道が開けるはずです。スポットワークが、介護現場の人材マネジメントを支える新たな社会インフラとなることを、大いに期待しています。
山岡:ありがとうございます。われわれも事業者の皆様に寄り添う伴走型の支援を通じて、「働き手の体験」を第一に考え、魅力ある現場づくりを推進していきます。スポットワークという仕組みが、単なる人手不足の解消に留まらず、持続可能な介護インフラを支える一翼を担えるよう努めて参ります。