国内初、タイミーで「公務員の副業」を実施。町づくりの進化を目指した北海道十勝清水町の取り組み

国内初、タイミーを通じて「公務員の副業」を実施。町づくりの進化を目指した北海道十勝清水町の取り組み

国では各地方公共団体に対して、兼業許可に関する技術的助言のほか、兼業許可を行うにあたって、国家公務員における許可基準や各地方公共団体における社会貢献活動に関する兼業許可等の事例の展開を行ってきました。公務員副業の認知は広まっていく一方、なかなか実践できていない自治体も多いのではないでしょうか。

2024年6月、 北海道 十勝清水町とタイミーは包括連携協定を締結しました。各種産業の担い手不足や慢性的な労働力不足が喫緊の課題の清水町において、「稼ぐ×学ぶ×交わる」をテーマに、働き手および事業者に対して様々なサポートを実施。町内の労働力不足、担い手不足の解消を目指していきます。その取り組みの中で、話題を集めたのが、「清水町職員の副業に、タイミーを活用する」という内容。町内事業者の人手不足解消に貢献するだけではなく、町内のさまざまな仕事を通じて、職員自身のスキルの向上や可能性を広げる機会を創出していきます。

そして2024年11月10日に、清水町で初のタイミーを通じて、商工観光課の前田さん、高橋さんが勤務をしました。

なぜこのような取り組みに至ったのか、副業をしてみてどうだったのか、今後どのような可能性を感じているのか。副業体験後のお二人にお話を伺いました。

・北海道 十勝清水町 商工観光課 課長 前田 真さん
・北海道 十勝清水町 商工観光課 主査 高橋 勇生さん
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人口増加施策に限界。人口減少を踏まえた「持続可能な町づくり」に方向転換

人口増加施策に限界。人口減少を踏まえた「持続可能な町づくり」に方向転換

十勝清水町 商工観光課課長 前田真さん(写真左)、主査 高橋 勇生さん

——十勝清水町とタイミーは、2024年6月に包括連携協定を締結しましたが、当時、向き合っていた課題について教えてください。

前田真さん(以下、前田さん):どこの自治体も同様だと思いますが、人口減少に伴う“慢性的な労働力不足”をどう解消すべきかという点ですね。清水町としても移住や出生率向上など人口を増やすことを従来のミッションとして捉えてきました。

しかし、そのロジックもいよいよ崩壊し始めているということに気が付いたんです。

私が企画課に在籍していた際、清水町役場の10ヵ年計画に携わっていたのですが、初めて「人口減少を前提とした計画」を作成しました。今までは人口9,000人のところを、9,100人、9,200人にするかという小さい数字に対して必死になるのではなく、人口減少する中でどのように持続可能な町を作っていくかと方向転換したんです。

我々も数年前からマッチング支援事業などに力を入れていたものの、コロナ禍の影響もあって町民の交流にも制限が出てしまったこともあって。人口を増やすことも大事だけど、世の中の動向のせいで、何をどう頑張ってもどうにもならないことだってあります。ですから「維持する」という点にもフォーカスすべきだと思ったんですよね。

——多くの自治体が、まずは「関係人口を増やそう」という取り組みをされている印象です。

前田さん:清水町以外の方に認知してもらうためには、定期的な情報発信が必要です。しかし、清水町の場合「情報発信力不足」は大きな課題だったんです。

今まで役所というと自分たちの力でなんとか解決しようとしていたんですね。例えば清水町でいうと、ハローワーク事業やマッチング事業を立ち上げて告知してみたり、ホームページを作って運営してみたり……。ただ、役所のホームページなんてどんなにオシャレに作ったとしても、誰も見にこないわけです。

行政の情報発信では、流石に限界があるというのを突きつけられたんですよね。

——「自治体による情報発信」に限界を感じたきっかけはあったのでしょうか。

「自治体による情報発信」に限界を感じたきっかけ

前田さん:一番大きかったのは、Airbnb Japan株式会社と協定を結んだことです。これまでも移住施策には力を入れてきましたが、私が異動してきたときはまだ移住体験住宅が1軒のみ。さらに稼働率も全然上がっていない。何をやっていたかというと、清水町のホームページ上でPRしていただけでした。せっかく良い体験住宅はあるのに認知されないことが歯痒くて。

そこで、Airbnbと組み施策を進めて行ったところ、一気に住宅数も利用者も激増したんです。元々1年間で約20万円ぐらいの収入しかなかったところ、7、800万円ぐらいの収入が生まれるようになりました。それで「情報発信に関しては、その道のプロに任せたほうがいい」と実感して、自分自身の仕事の向き合い方に変化が生まれました。

田舎は、どうしても一番大きい集合体が役所になるので、自分たちが一番情報発信が上手だと思い込んでしまうんですよね。でも、業界のプラットフォーマーと組んだほうが、一気に情報は広がるし、知ってもらえるようになったんです。

ですから、労働に関してもその道のプラットフォーマーと組むのが良いのではないかと、タイミーさんに声をかけました。

——ありがとうございます。しかし、人材・就労マッチングに取り組んでいる企業は数多くある中で、なぜタイミーだったのでしょうか。

前田さん:Airbnbと組んだ移住体験ワーケーションを進める上で、子育てワーケーションも面白いのではないかと、 保育園留学(※1)に取り組むことになったんですよ。ありがたいことに好評でして、全国から問い合わせをいただくようになったものの、今度は保育士の数が足らない問題に直面しました。お子さんがいるご家族を受け入れたいけど、面倒が見られないという状態ですね。

その中で、「Airbnbや保育園留学など、清水町で何か面白いことやってるぞ」とさまざまな自治体や団体が視察に訪れてくれるようになって。その際に保育士不足を相談すると、「タイミー」という人材マッチングサービスがあると教えてもらったんです。正直よく知らなかったのですが、すぐにつないでいただきました。勢いのままタイミー本社に突撃し(笑)、話を聞いたのがきっかけですね。

(※1)保育園留学とは、 1〜2週間ご家族で清水町に滞在するプログラム。お子さんは「しみず認定こども園」に通園しながら、自然豊かな清水町の暮らしを体験することができる。

話を聞く中で、タイミーの働き手がスポットで働く仕組みは、高齢化が加速する町でも活用できると思いました。それに、我々はつい「外から人を呼ぶ」ことに目を向けがちですが、タイミーの話によると、「ご近所同士で労働をシェアすることもできる」と。目から鱗がボロボロとこぼれ落ちましたよ。

——前田さんが構想された、人口減少の中でいかに「持続可能な社会」を維持するか、という計画にも結びついたわけですね。

前田さん:Airbnbの民泊事業と組んだのも、元々ある社会資源を観光資源にしていこうというのがベースにあったんですね。人口増加を踏まえた計画作りのときは、都会から企業を誘致してホテルを建設する……というのがセオリーでしょう?

しかし、我々は主観を捨てて「清水町にある資源をどう活かすか、その取り組みそのものを観光資源にしていこう」と舵を切り替えたわけです。そうなると、自然とシェアリングエコノミーの視点になっていきました。

施策を考えるなら、現場を知ることから。公務員副業を行う真の目的

——「タイミーを使って、公務員が副業をする」という日本初の試みを考えたのもそのタイミングだったんですか?

前田さん:社会資源の活用という観点で考えると、町の根幹となる会社の労働力をシェアすればいいよね、と思うようになって。田舎の自治体において一番人口が集まっているのは役場なんですよね。だったら、役場で働く公務員の余らせている時間を有効に活用すればいいのではないかと考えました。

高橋勇生さん(以下、高橋さん):清水町の場合、町長や前田さんが民泊を始めたタイミングで副業解禁になったわけですが、全国的にもコロナ禍になって、公務員の副業が注目され始めました。副業をやれば職員のスキルも向上していくことも増え、どんどんやっていこうという風潮になったのかなと。

高橋勇生さん

前田さん:今まで公務員は民間の人たちと必要以上に深く付き合ってはいけないという教育がされてきたと思うんですが、社会の風潮が変わりましたよね。ただ、これまでは「副業解禁」って言われても、我々は何をすればいいのかわからず、全く進んでいなかったように思います。人づてに依頼してもらうか、ハローワークで斡旋してもらわないと仕事にありつけない。

でも、タイミーのようなプラットフォームができたおかげで、私たち自身、世の中にはこんなに仕事があるんだと改めて気がつきました。

——2024年の11月10日に、タイミー経由で梶山農場さんで働かれたわけですよね。清水町の公務員副業としてはお二人が第一号だったわけですが、仕事をしてみていかがでしたか?

前田さん:いやー、大変でしたね。やってもやっても仕分けなきゃいけない芋はたくさんある。ずっと立ちっぱなしで疲れました(笑)。

高橋さん:私は前職で農業に関わっていたので多少経験はあったはずですが、重いコンテナを持ち上げて一つひとつ芋をチェックして……その繰り返しでした。仕事終わりのコーヒーが美味しかったです(笑)。

ただ、報酬以上にいい経験をすることができました。若い新人職員の場合だと農家さんと接する機会も少なければ、農作物に触れる機会もほぼありません。農家さんのお話を聞きながら、一緒の仕事をする機会なんて、日常生活の中では滅多に経験できませんからね。

前田さん:私ぐらいの年齢になるとほとんどの町民が知り合いだけど、高橋さんのような若手の場合、たった9,000人の町だったとしても知らない人がほとんどですよね。このように町の人たちと接する機会って、公務員にとっては非常に重要だと思います。

あと、実は公務員って町民の仕事がどんな内容でどれくらいの賃金が支払われているか手触り感がないんですよ。今回は時給1,010円で3時間働いたわけですけど、こんなに重労働だったものの果たしてそれが最適なのか。他業種と比べてどうなのか——。世の中の価値観がわからないんですよね。研修で習ったりハローワークの求人票で知ってはいるけど、賃金が見合ってるのかどうかは経験してないから断言できないんです。

梶山農場で朝9時〜12時で芋の選別作業を実施

梶山農場で朝9時〜12時で芋の選別作業を実施

だから、今度はぜひ介護職に挑戦してみたいと思っています。国や世論では介護士や保育士不足について論じ合っているけど、仕事内容と賃金ベースでの折り合いでは論じ合ってはいない。だから本当に何が原因で不足しているのか本質が見えていない可能性は多いにあります。そこで、僕と高橋さんがたった1時間でも介護や保育の仕事をやってみてはじめて、賃金格差の問題に向き合うことができるんじゃないかと感じています。

高橋さん:私も、現場に出て仕事を経験すれば、役場での仕事にも反映できると思いますね。賃金が発生することで単なる手伝いではなく、仕事として向き合うことができますし、より多くの職員に体験してほしいです。

前田さん:やっぱり賃金が発生することに意味がありますよね。梶山さんのところでは、2人で出荷できる芋を選別していったわけですが、人件費を差し引いた時に利益がどれだけ出ているのか気になりました。人手を確保しても儲けが出ていないなら意味がありません。我々公務員が実態を理解して、その産業に補助金を出すのか仕組みを変えるのか……といったことを進めていく必要があります。公務員の仕事は、集めた税金を正しく分配していくことですが、それを仮説でやるのか、体感してやるのかでだいぶ変わってきますからね。

——職員の方が無償で手伝っている事例もありますが、賃金が発生することに意味があるんでしょうか。

前田さん:私も高橋さんも現場が気になるので、色々な事業者さんのところに足を運びますが、手加減してくれるんですよね。役場の人だからと綺麗なところしかやらせてくれないんですよ。だから、賃金が発生するということに意味があると思っています。単なる体験では意味がないんです。

高橋さん:梶山さんのところでは、休憩中にコーヒーを飲みながらいろんな話をしたのですが、住民の噂だったり、役場への要望だったり、農家間での困りごとだったり。いろんなことをお話しいただきました。一緒に作業着を着て、泥だらけになったからこそできる話もあったと思います。

仕事をしながら農家の現場や役場への要望なども伺う

仕事をしながら農家の現場や役場への要望なども伺う

前田さん:役場の人間は、距離を置かれがちで、机を挟んでお喋りしても本音を話してくれないことも多いんです。でも、やっぱり働いた後の連帯意識というか、一緒に汗を流したことで生まれるコミュニケーションは大きいなと実感しました。地域懇談会を定期的にやっているけど、話す内容の密度がまったく違ったように感じます。

公務員が副業する意味は、単純に「稼げて嬉しい」「役に立った嬉しい」という経験値を上げることだけに留まりません。それに加えて、「社会や産業の仕組みや歪みを理解する」「そこで働く人の悩みや苦労を分かち合う」ことこそが、我々が副業をする意味だと思いますし、価値のあることだと感じています。

——町民側からしても、職員の皆さんが真剣に自分たちの仕事に取り組んでくれたことで、職員に対しての信頼感が生まれるでしょうし、「今度相談してみようかな」と思えますよね。

公務員の副業を受け入れた梶山農場のコメント

副業先の梶山農場 梶山貴史さん

副業先の梶山農場 梶山貴史さん

忙しい時期にスポットワークとして働いてもらうことは魅力的だったので、いつかタイミーを使ってみたいと思ってはいました。でも、やっぱり最初は不安。働きにきてくれた人にどう接したらいいのかわからないし、大切な農作物だから何を任せていいのか悩みます。

ですから、タイミー活用の第一号として最初に町の職員の方に働いてもらうのは安心できました。どんなに仲の良い方でも、賃金をお支払いすることでお互い責任感を持って取り組むことができますしね。こうやって前田さん、高橋さんに働いてもらいながら、「清水町をどうしていきたいか」「農家はこういうことに困っている」と相談できたのも大きかったです。

清水町にはたくさん農家がありますので、もっとタイミーを通じて職員の方に働いてもらい、現場を知ってほしいですね。

町づくりを促進するなら、民間の力を活用する

——今後清水町でも公務員の副業に取り組まれていかれるかと思いますが、副業を推進したくてもなかなか進んでいない他の自治体に向けて、何かアドバイスなどあればお願いします。

前田さん:そうですね。まずは、本気で公務員が副業に取り組むためには、「お金儲けする」という感覚は取っ払うこと。私たちは国の標準としてお給料が決まっていますので、生活に困っているわけではありません。あくまでも意識すべきなのは「町づくりを進化させるために、副業がある」という感覚

公務員は、何かしら「町のために何かしたい」と思っているわけですから、それを押し出していくことで職員の意識は変わっていくのではないかと思います。

前田真さん

あとは、タイミングも重要かもしれません。すぐに取り組もうとはせずに、「賛同者を集める」「推進してくれそうなフットワークの軽い人を見つける」などと、自分一人ではなく周りを巻き込んでいくことが大切かなと。

私は「やんちゃで尖っている」と思われがちですが(笑)、ちょうどなんでもやらせてくれる町長と、高橋さんのようについてきてくれる部下と、協力してくれる梶山農場と、プラットフォーマーのタイミーさんと……という感じで、タイミングが重なったんですよね。その最適なタイミングを見極めるためにも、じっと様子を伺って待つことは大事ではないかと思いますね。

——実行力も大事ですが、周りの環境やタイミングも大事なんですね。

前田さん:最初「町長の家も民泊できること」を打ち出した際、批判も一定あったと思います。ただ、批判を恐れず受け止める覚悟と勇気を持って踏み出すことは重要ですし、そこを一緒に開拓していける民間のパートナーと連携していくと良いんじゃないでしょうか。やり続けているうちに賛同者も増えてきましたから。

先ほどもお話ししましたが、いくら役所が発信を頑張って、何千万円もかけてホームページを作っても他の地域の人はもちろん、町民だってわざわざ見にくるのかと。民泊したいならAirbnbを見る、働きたいならタイミーを見るわけです。

つまり、プラットフォーマーの力を存分に借りた方が早いし安いし確実。「役所の力だけでシティプロモーションとか副業とかやれる!」という驕りは捨てていった方がいい。

国内において公務員の副業に関する認識は広まりつつありますが、民間との関わりを慎重にすべきだとされる中で、実際に実践できている自治体はまだ少ない状態です。

しかし、今回改めてタイミーを通じて副業したことで、研修やハローワークの求人票からは見えてこない、そこで働く人の悩みや苦労を実感できたように思います。現場の肌感覚を知ることはもちろん、自分たちの認識と現実のギャップを埋めるためにも、公務員の副業はおすすめですよ。

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