ワーカーに向けた“ホテル基礎研修会”をレポート。タイミーとの協定締結の背景や実施後の感想にも直撃

ワーカーに向けた“ホテル基礎研修会”をレポート。タイミーとの協定締結の背景や実施後の感想にも直撃

2024年5月14日、株式会社タイミーは仙台市および地域DMO(※1)である公益財団法人仙台観光国際協会と、交流人口の拡大に向けた宿泊事業者の人材確保支援等に関する連携協定を締結しました。

corp.timee.co.jp

当社は2021年8月、仙台市に東北支社を開設して以来、東北地方の働き手・事業者の課題解決に向けて取り組んできました。仙台市内の飲食店や小売店、物流倉庫はもちろん、秋保温泉や作並温泉などの観光地においてもタイミーは活用されており、2022年10月と比較すると2024年10月末時点の市内のワーカー数は約3.2倍、事業所数は約3.6倍と、スポットワークが着実に普及しています。

本記事では、協定のテーマでもある「宿泊施設の人材確保支援」の取り組みの一つである「ワーカーに向けたホテルの基礎研修会」について、紹介します。

※1:原則として、基礎自治体である単独市町村の区域を一体とした観光地域として、マネジメントやマーケティング等を行うことにより、自治体と連携して観光地域づくりを行う法人。公益財団法人仙台観光国際協会は、2023年3月31日に観光庁より地域DMOの候補法人として登録を受けている。
※ワーカーとは、タイミーを通じてマッチングした働き手のことを指す。

「仙台市ワーカー向け宿泊施設サービス研修」実施の背景とスキーム

東北エリア唯一の政令指定都市である仙台市。仙台城から一望できる街並みは「杜の都」と呼ばれ、作並温泉や秋保温泉は人気の観光地です。2019年の宿泊者数は過去最高となる624.2万人を記録、新型コロナウイルス感染症の拡大によって一時的に宿泊者数が落ち込みましたが、インバウンドの影響も追い風となり急速に回復しています。

仙台市では交流人口の早期回復とさらなる拡大に向け、2022年に「仙台市交流人口ビジネス活性化戦略2024」を策定。2024年に宿泊者数650万人を達成することを目標とし、取り組みを続けてきました。

この度の「仙台市・公益財団法人仙台観光国際協会・タイミー」による連携協定では、ホテル・旅館を対象としたスポットワーク活用セミナーや、仙台観光国際協会による補助金を活用したスポットワーク導入の促進などを通して、宿泊業における人材確保支援を強化しています。

「仙台市・公益財団法人仙台観光国際協会・タイミー」による連携協定

中でも注力しているのが、「ワーカーを対象としたスキルアップ研修会」の開催です。

総務省の『労働力調査』によると、「宿泊業、飲食サービス業」における2024年平均就業者数は407万人と、前年に比べ9万人増加しています。しかし、全国的に高まる宿泊需要において、どのエリアでも人手不足は顕著であり、仙台市も同様に重要課題と捉えています。

そこで経験者はもちろん、未経験の方にも宿泊業への間口を広げていくべく、興味を持ってもらうための最初のステップとして、ホテル・旅館などのマナーや接客技術を学び、実際の就業につなげる研修会の開催となりました。

研修会実施から、スキマバイト就業までのイメージ

研修会実施から、スキマバイト就業までのイメージ

タイミーアプリ上で研修会の参加者を募集します。その後、宿泊業に興味関心があるワーカーが研修会に参加。座学だけではなく実技を交えながら、ホテルや旅館で働くために必要な知識やマナーの習得を目指します。研修会が終了したら、参加者には「修了証」が贈呈されます。仙台市内にあるホテル・旅館において研修修了者対象の求人も掲載されており、ワーカーも安心して仕事に挑戦することができる仕組みです。

「仙台国際ホテル」でのワーカー研修に密着

025年2月18日に開催された「ホテル基礎研究会」は、おもてなしに定評のある「仙台国際ホテル」に協力いただきました。

まず、公益財団法人 仙台観光国際協会 DMO担当部長 川口様より、本日の企画説明を終えた後、座学研修からスタートです。株式会社タイミーでホテル業界を担当する山下華が、ビジネスマナーやホテルの基礎知識、タイミーの活用方法を伝えます。

座学研修からスタート

ホテルだけではなく普段の生活にも活かせるお辞儀の仕方や話し方について、必死にメモをとる姿が印象的でした。

必死にメモを取る姿

その後、実際にホテルで働く際の実技パートです。会場である仙台国際ホテルの統括支配人である沼田氏から丁寧にレクチャーをいただきます。

沼田さんのレクチャー

例えば、料理は基本的に右から提供する、カトラリーの使い方にもルールがあり使う順に外側から内側に並んでいる……など、普段何気なく見て触れていたものにもちゃんと理論があることに驚きました。

実際に手を取る

実際に手に取って、お肉用とお魚用のナイフ・フォークに違いがある理由を学びました。

ナイフとフォーク

次に最難関と言われる、プレートサービス(トレイを使わずに料理皿を複数枚運び提供すること)を体験します。美味しい温度でお食事いただけるようにいかに早くお席まで運ぶかが重要なので、2枚、3枚持ちが一般的です。ソースがこぼれないよう平行にするために、手のひらをうまく使うことがポイントなんだとか。

プレートサービス

この他、水の注ぎ方、立食パーティー時のワインの注ぎ方もレクチャーいただきます。ワインのラベルが見えるように注ぐ、お客様に手渡しする際はワイングラスのステム(持ち手の部分)ではなくフット(台座部分)を持って渡すなど、お客様に飲み物を楽しんでもらうための基本動作を学びました。

ワインの注ぎ方

最後に、川口氏より仙台市の観光スポットなどを紹介いただきます。研修を受講した人が働くことができるホテル・旅館も紹介しました。

川口さん

早速教わったことを活かそうと、申し込んでいるワーカーさんもたくさんいらっしゃいました。ホテル研修に参加した証明となる「研修修了書」をスマートフォンにダウンロードしたら、本日の研修は終了です。

満足度は100%!研修会参加者のアンケート結果

今回は仙台市近郊から集まった29名のワーカーさんが参加。会社員の方から主婦(主夫)、転職活動中の方までさまざまな属性の方がいらっしゃいました。

アンケート:属性

次に、なぜこの研修会に参加したのかを聞いたところ、「ホテルの仕事に興味があったから」「ホテルで働いてみたかったから」と、ホテルで働く意欲を感じられる結果となりました。

参加理由

実際に参加してみての満足度について聞くと、研修会の満足度は「満足」が65.5%、「やや満足」34.5%と、ポジティブな感想が100%を占めました。

満足度

さらに、「ホテルの勤務についてよく理解できた/理解できた」と回答した人は89.7%に。また「ホテルで働いてみたいという気持ちがより強くなった/強くなった」と回答した人は93.1%と、非常に多くの方が研修会に満足しており、次の一歩を歩もうとしていることがわかりました。

理解度

働きたい意欲

フリーコメントでも「実際のテーブルセットで基本的なマナーがわかり、給仕体験もできたことで小さな自信に繋がりました」「教えていただいた事を実践してみたいと思います」と前向きなコメントが多かったことも印象的でした。

「ホテルって楽しい」と思ってもらうきっかけに/統括支配人インタビュー

次に、今回の研修会の講師および、会場を提供いただいた仙台国際ホテルの営業戦略部 統括支配人である沼田 貴暁さんにお話を伺いました。

沼田 貴暁さん

仙台国際ホテル 営業戦略部 統括支配人 沼田 貴暁氏

——今回、なぜこのホテル研修にご協力いただくことになったのでしょうか?

沼田さん:コロナが落ち着き日本人観光客が増加していることに加え、海外からのインバウンド需要の影響で、多くの方に仙台国際ホテルを利用していただいておりますが、やはり当ホテルだけではなく、どこのホテル・旅館においても働く人材の確保に苦戦を強いられています。我々が率先して研修にご協力することで、この業界全体を盛り上げるきっかけになればと思った次第です。

実際に、タイミーは以前から宿泊部門やレストラン部門で利用していたことも大きかったですね。より多くの方に対してホテルで働く魅力を知っていただきたいと強く思いました。

——今回は主にレストランの実技部分を担当いただきましたが、実際にやってみていかがでしたか?

沼田さん:だいぶオーバーリアクションで動作をわかりやすく伝えていったつもりですが、参加者の皆さんが想像以上に興味を持って真剣に取り組んでくださったことが嬉しかったですね。短い時間の中でできるだけ多くのことを吸収してもらおうと詰め込み過ぎてしまったかもしれません(笑)。しかし、多くの方に満足いただけたようでホッとしています。

研修中の様子

——講師を担当いただく際、意識されたことなどありますか。

沼田さん:何よりも「楽しんでもらえること」を一番に考えて設計しました。ホテル・旅館ってどうしても働く上で敷居が高いイメージがあるじゃないですか。確かに多くの方をおもてなしする職業ですが、ある程度、自分の中でわかっていれば問題ないよ、ということを伝えていたつもりです。ですから、「ナイフやフォークのセットの仕方」「右から配膳する」といった対応一つひとつにも、必ず理由を添えて納得してもらうことに重きを置きました。

——従業員の方も多く参加してくださいましたね。

沼田さん:教育担当をしている若手従業員にも参加してもらいました。ワーカーさんに教えることで「ここでこういう説明をすると理解しやすいんだ」「未経験の場合、この部分がわからないんだ」など、多くの気づきが得られたのではないでしょうか。当ホテルとしても教育には力を注いでいますから、彼ら彼女らにとっても良い機会になったと思います。手応えを感じたので、今後もどんどんこのような教育の場を作っていきたいですね。

——最後に、業界の人手不足に対する、今後のお考えを教えてください。

沼田さん:やはり我々はこの業界で働く人たちをもっともっと増やしていかなければなりません。敷居が高い、大変そう、難しそう……という先入観を取っ払い、まずは「ホテルで働くことは楽しい」と思う人材を増やしていくことが我々の使命だと言えますね。

仙台市やタイミーと一緒にこのような取り組みをするのは、我々ホテル側にとっても有意義なことだと思います。今後も多くの人たちにホテルに興味を持ってもらう取り組みをしていきたいです。

繁閑期の差が激しい宿泊業においてスポットワークの可能性を感じた/SenTIAインタビュー

最後に、宮城県仙台市 仙台観光国際協会 DMO担当部長 兼 観光地域づくり推進課長の川口順弘さんに今回の協定に至った背景や、実際の取り組みについてインタビューしました。

——2024年5月14日、仙台市、仙台観光国際協会(SenTIA ※センティア)とタイミーが協定締結しましたが、当時抱えていた課題や打ち手検討について教えてください。

川口さん:仙台市は地方都市として、観光客だけでなく、ビジネスや学会やスポーツ大会等への参加など、多くの方に来訪いただいていた都市ですが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で宿泊施設など観光業も大きな打撃を受けました。各宿泊施設も感染拡大による移動の制限や感染が落ち着いた際の宿泊促進キャンペーンなど目まぐるしく状況が変わるなかで、適性な人員を模索するなど難しい時期であったと伺っております。しかし、2023年5月に5類に移行してから、徐々に出張者/観光客も回復傾向になり、ホテルや旅館の客室や宴会場をオープンできるようになったのですが、働き手が圧倒的に少ない状態だったんですね。

私たちは、2022年に「仙台市交流人口ビジネス活性化戦略2024」を策定し、2024年に宿泊者数650万人を達成することを目標としておりましたので、以前のような多くの方に訪れていただける仙台市に戻していくためにも、宿泊事業者の皆様へどのような支援をしていけばいいのかを議論を重ねていました。

宿泊施設の客室や宴会場を十分に稼働させるためには、正社員や外国人採用の支援といった中で長期的な視点だけではなく、短期的課題を見据えた「スポットワークの導入促進」も併せて取り組む必要があると考えました。実際に事業者様へのヒアリングでも「すでにスポットワークを活用している」という声を多くいただいたことも後押しになっています。

川口 順弘氏

宮城県仙台市 仙台観光国際協会 DMO担当部長 兼 観光地域づくり推進課長 川口 順弘氏

——なぜスポットワークに着目されたのでしょう?

川口さん:宿泊業は、繁閑期の差が顕著になります。繁忙期に大量に正規従業員を採用しても、閑散期には手持ち無沙汰になってしまう……、存分に活躍いただけない時期も生じてしまいます。しかし、スポットワークという働き方は、事業者様側も「必要な時に募集」できますし、ワーカーさんにとっても「働きたい時に稼働」できる、とても良い仕組みだなと。宿泊業に適しているのではないかと感じました。

タイミーさんとの締結を決めたのは、既に下呂市やニセコ町・倶知安町との協定をニュースで知ったこと、そして登録ワーカーさんの数が非常に魅力的だったことが大きな理由です。都内だけではなく全国各地にワーカーさんがいらっしゃることは、地方都市にとって心強いですからね。

——そうは言っても、質の高いおもてなしが求められるホテルや旅館にとっては、スポットワークに抵抗があった事業者もいらっしゃったのでしょうか。

川口さん:もちろんスポットワークの活用推進にあたっては事業者様、それこそ協議会や各団体などさまざまな方々に意見を伺いました。一部、「スポットワークで募集を出したものの、ホテルで勤務いただくには相応しくない身だしなみの方もいて、残念ですがその日は働いていただけなかったこともありました」という意見もございました。接客業として、不安を感じられるのはごもっともだと。

しかし、そのような事業者様の不安やワーカーさんと仕事とのミスマッチを作ってしまうリスクを払拭する方法はないかと検討した際に、あらかじめ「ホテルや旅館で働くことはどういうことなのか」を理解いただくことが重要だと気がついたんですね。そこで、我々が主体となり、一般的な宿泊業の知識を学ぶことができる研修会を定期的に開催することにしました。宿泊施設の方々やタイミーさんにも協力を得ながら、どのような情報を提供すれば興味を持ってもらえるのか、研修に前向きに参加してもらうためにはどうすればいいのかなど細かく考え、作り込んでいったんです。

ありがたいことに事業者様からも「協力するよ」とお声がけいただき、内容の充実したプログラムを完成することができました。

研修の様子2

——過去3回タイミーと基礎研修会を実施してきましたが(2025年3月現在)、どのような感想をお持ちでしょうか。

川口さん:事業者様のご協力の甲斐もあって、参加されたワーカーさんからの満足度が非常に高く嬉しく思っています。これまで宿泊業に興味があったけどなかなか応募ができなかったという方が、「研修会なら」と足を運んでくださり、そこからホテルの仕事に就業してみるというスキームが構築できたことは嬉しく思っています。実際、タイミーを活用いただく宿泊事業者様も増えていますし、この研修に参加された方がホテルの募集に申し込んでリピーターとして活躍しているという嬉しい声もいただいております。このスキームは宿泊業だけに留まらないと考えており、仙台市としても、飲食や農業、介護などさまざまな業界に展開できるのではないかと期待しています。

本取り組みはスタートしたばかりではありますが、近い将来ワーカーさんにとっては「自分に合った就業場所」を、事業者様にとっては「活躍いただけそうな人材」を、短期的だけではなく長期的な採用活動も視野に入れながらタイミーを活用してもらいたいですね。そのような機会を提供できる仕組みを仙台市、タイミーと三者連携して進めていければと思います。

・仙台国際ホテル

杜の都のリーディングホテルとして、常にランキング上位に位置する東武ホテルチェーン「仙台国際ホテル」。JR仙台駅から徒歩5分という立地はもちろん、「ゆとりとくつろぎの空間」として多くの観光客に愛されている。
https://www.tobu-skh.co.jp/


・宮城県仙台市 仙台観光国際協会

仙台国際交流協会と仙台観光コンベンション協会が統合し、2015年4月仙台観光国際協会(SenTIA/Sendai Tourism, Convention and International Association)が設立。交流人口の拡大や地域経済の活性化、多文化共生によるまちづくりを目指し、さまざまな事業を運営する。
https://www.sentia-sendai.jp/

おすすめ記事