子どもファースト実現のためスポットワークを上手に活用 〜保育業界の人材不足課題に対する宗像市での取り組み〜

子どもファースト実現のためスポットワークを上手に活用 〜保育業界の人材不足課題に対する宗像市での取り組み〜

現在スポットワークという働き方はさまざまなエリア、さまざまな産業で浸透しています。それは、保育業界においても同様です。保育士の急な病欠や休暇など、予期せぬ事態において人員を確保する手段として、タイミーを導入する保育園・児童施設も増えています。一方で、「安全性は大丈夫か?」「子どもの育成において問題ないのか」といった懸念があるかもしれません。

そこで今回は、タイミーを活用している保育園と、保育・福祉の業界における労働力確保に力を入れている市にインタビューを実施。社会福祉法人わおん会 理事長であり、宗像市の認定こども園「いちごいちえん」の園長である宮部哲さんと、株式会社タイミーで介護保育業界の専任グループに所属し、九州エリアを担当する小川洋飛との対談を行うとともに、2024年9月に介護・保育の人材不足解消をテーマに掲げ、連携協定を締結した宗像市にもお話をお伺いしました。

※組織名や役職等は取材当時のものを掲載しています。

・社会福祉法人 わおん会

いちごいちえん(宗像市)、ストロベリーヒルズ(福岡市東区)を運営。「子どもファースト」を保育理念に掲げ、今の保育の在り方を日々見つめ、子どもたちに還元できるよう日々取り組んでいる。第18回キッズデザイン賞(2024)~子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン部門~を受賞するなど、子ども目線で設計された園舎も特徴的。
https://www.strawberryhills.design/


・福岡県宗像市

福岡市、北九州市への通勤も便利であり、世界遺産「沖ノ島」と「宗像大社」を擁する歴史と自然豊かな都市である宗像市。その住みやすさから、教育と子育て支援に力を入れている。また、古くから農業や水産業が盛んな街として知られている。
https://www.city.munakata.lg.jp/

導入後、正職員登用も。保育士が子どもたちに寄り添える環境を目指す【いちごいちえん×タイミー対談】

株式会社タイミー 介護福祉グループ 小川(以下、小川):現在、170名ほどの園児を預かっている認定こども園を運営している宮部さんですが、元々保育業界出身ではなかったんですね。どのようなきっかけで保育事業に携わるようになったのでしょうか?

宮部哲さん(以下、宮部さん):そうですね。人材派遣の営業をしたり、電機メーカーで行政に提案したりと、一般企業で会社員として働いていました。大学生の頃は芸能事務所でタレントを売り込む仕事をしていたこともあります(笑)。ある時、父親が「生まれ育った福岡県宗像市で認定こども園を運営する」と言い出したんです。当時は待機児童が問題になってきた時期で、なんとかしたいという思いがあったんでしょう。父親が先にマンションの一室で開業し、私が33歳の時に事業に合流しました。

最初は無認可でしたが、認定こども園として現在170名ほどのお子さまを預かるまでになったのは、さまざまなご縁があったからこそ。園を建てるならと場所を貸してくださった福祉施設の理事長、この園舎を担当してくださった設計士、子どもの自己肯定感を育むプロとして登録された副園長など、多くの方の助けやフォローがあって今に至っています。

いちごいちえん

ホームページより

小川:いろんな方の助けがあっていちごいちえんの園長としても活躍されているわけですが、会社員から保育業界に飛び込むことに不安や迷いなどありましたか?

宮部さん:正直ないと言ったら嘘になります。保育って子どもたちの未来を預かるわけで責任重大ですからね。でも、反対にやってみないとわからないという思いもありました。

社会福祉法人わおん会 理事長/いちごいちえん 園長  宮部哲さん

社会福祉法人わおん会 理事長/いちごいちえん 園長 宮部哲さん

小川:現在は「子どもファースト」という保育理念を大切にされているとのことですが、どのようにしてそこに辿り着いたのでしょう。

宮部さん:私は最初、返事ができて大人の言うことを聞いて……と育てることが正しいと思っていたんですね。でも保育を勉強していくうちに、厳しすぎる指導は子どもたちのためにならないと考えるようになりました。もちろん、一定の厳しさも大切ですが、やはり今の時代においては「指示待ちではなく、自分で考えて自分で答えが出せる」「クリエイティブな考えを持つ」ことが重要だと気がついたんです。AIの発展も影響を受けているかもしれません。大人の顔色を伺ったり、言われたこと通りに動いたり……、すでに正解があって人に流される人生を送ることになると不幸になってしまうんじゃないかと。

小川:宮部さん自身も枠にとらわれず働かれてきたという実体験もあったからなんでしょうね。

宮部さん:ですから、子どもたちが「これがしたい」と意見を言えるような環境を何よりも大事にしようと考えました。うちの先生たちが意識してるのが、子どもたちに「次どうしたらいいと思う?」「他には何かあるかな?」とか選択肢がいくつもあるような質問をすること。仮に間違ったとしても否定せずに受け入れるようにすること。自分で考えたことに自信を持ってほしいと思っています。

そのためには、自己肯定感を育むこと、多様性を受け入れることも大事だと思っています。いろんな人間がいて、どの個性も素敵であること。そして自分自身も素敵なんだと思ってもらいたいんです。ですから当園では、金髪や青髪の保育士も在籍していますし、子どもたちもそれが普通だと思っている(笑)。社会に出るとさまざまな意見にぶつかることも出てきます。子どものうちに自分を愛する、周りを愛する人材になっていけるよう、私たちが支援していきたいと考えています。

タイミーの営業も伴走し、子どもたちの安全を第一に考えながら、理念に沿った保育運営を実現

小川:「子どもファースト」な園を運営していくためには、保育士さん自身が伸び伸び働ける環境を作ることが重要ですよね。保育業界では労働力不足問題が深刻ですが、いちごいちえんさんがタイミーを活用し始めたのもそのような課題からだったのでしょうか?

宮部さん:人材不足に関しては私たちだけではなく、保育業界全体として大きな課題と捉えています。子どもが好きだからと保育の道に進んだとしても、プレッシャーや人間関係、拘束時間、仕事量など、さまざまな事情で辞めざるを得ない方も多くいらっしゃる状態です。当園の場合、常勤非常勤の保育士さんは34、5名在籍しており、配置基準は満たしています。しかし「子どもファースト」に基づいた運営をしようとすると、決して十分な人数とは言えません。

「子どもファースト」に基づいた運営

子どもたちが伸び伸びと過ごせる園であるためには、先生たちが子どもたちに時間をかけられるように、働く上での余裕が必要になります。ですから、急な欠員や児童の状況にあわせてタイミーでワーカーさんを募集することで、先生たちの負担を減らすよう工夫しているんです。もちろん、最初にタイミーを使ってみることに抵抗がなかったといえば嘘になるかもしれません。しかし、信頼のおける園での利用実績もありましたし、小川さんもフォローをしてくださって。とりあえずやってみないと判断できないと思ったので、2024年11月に導入しました。

求人内容の一部

求人内容の一部。既存保育士の補助/裏方業務を募集

小川:特に保育業界においては、タイミーのようなスポットワークの導入に抵抗がある事業者様もいらっしゃるかもしれません。当社としても安心安全に働いてもらえるように、さまざまな機能開発や活用提案を行っています。特にお子さまの個人情報保護は徹底しなくてはなりませんから、求人原稿には就業規則を細かく記載する、働く前には誓約書への署名を徹底するなどの提案を行っています。

また、お子さまとワーカーを1対1にしない、保育士さんの業務分解を行って初めてのワーカーさんにはお子さまと接しないお仕事をお願いするといったこともアドバイスしております。既存保育士さんの目があればいいのかと納得していただけますし、「安心して利用できる」という声も多くいただいております。

宮部さん:基本的なタイミー活用については、先生方にお任せしています。やはり現場の先生は保育のプロフェッショナルですから。私は基本的な保育理念と方針、経営を主に担当し、具体的な教育指導に関しては保育士さんの意見を尊重するというイメージです。

導入する前は、毎回異なる方に同じことを教え続けることが負担になりそうなことに懸念もありました。しかし、有資格者に限定して求人できることはもちろん、スポットワークに慣れている方も多いことから、問題はありませんでしたね。

小川:いちごいちえんさんは、導入2か月時点で「また働きたい」というリピート率が88%、そしてGood率100%(※ワーカーから評価されたGoodの割合/2025年3月時点)という高い数値を誇っています。これには何か秘訣があるのでしょうか?

宮部さん:ありがたい評価ですね。特別なことは何もしてないのですが、「現場の先生方がタイミーの方を温かく受け入れている」「求人内容は丁寧に書く」「1人にせずに細かに話しかける」などに起因しているのでしょうか。

やはり、一緒に働く保育士だからこそ、「こんな業務を任せたらいいのでは」「この辺が不安になるかもしれないからフォローしよう」などわかるんでしょうね。Good率100%かつリピートいただくのは先生たちのおかげです。いただいたレビューはプリントアウトして先生たちに共有しています。園に対する客観的な評価によって「やってよかった」「この方針は間違っていないんだ」って自信につながり、働くモチベーションにもなっているようです。

小川:実際、2月よりワーカーから正職員になられた方もいらっしゃいますよね。その方からも素敵なレビューをいただいていました。

なかなか自分から話しかけることに抵抗がある性格なのですが、保育士さんはみなさん優しい方ばかりで丁寧に業務のことを教えていただきました。また、配膳の際はエプロン、三角巾の着用、おもちゃの消毒を都度行うなど衛生面も徹底されていました。
保育士さん一人一人が子どもとの関わりを大切にしており、子どもが満足するまで見守りつつ子ども同士のトラブルがある際には介入し穏やかに子どもたちに伝える姿はすごく勉強になりました。子どものことを第一に考える素敵な園です。私にはとても魅力的に感じました。(レビューの一部)

その方は、たまたま転職活動の合間にタイミーを利用しており、いちごいちえんさんで働く中で入社を決められたと伺っています。

宮部さん:そうですね。良い方に出会える採用ツールとしての可能性を感じたことも大きかったです。当園の保育士採用では必ず職場見学を行った上で、選考に進むか判断していただきます。あくまでもその方の意思を尊重することを徹底しているんです。ですので、まずは「働いてみる」という選択肢が開けたことに、とても可能性を感じました。

小川:タイミーを通じて働くことで、お金を得るだけではなく職場体験の機会となります。その方は1月ほどタイミーで働いていたようですが、いちごいちえんさんの保育理念や子どもたちへの向き合い方、保育士さんたちの様子などを体感できたのでしょうね。

株式会社タイミー 市場開発部 介護福祉グループ 小川洋飛

株式会社タイミー 市場開発部 介護福祉グループ 小川洋飛

タイミーで働くことが、保育士自身のスキルアップにもつながる

小川:今では宗像市の園長会において、タイミーを勧めてくださっているようですが、もともとタイミーのことはご存知だったんですか?

宮部さん:CMでタイミーのことを知りました。実はストロベリーヒルズ(福岡県東区)の先生がタイミーを利用していたんですね。うちの園では本業の無理のない範囲であれば「副業OK」にしているので、同じエリアの園の募集に申し込んだそう。それを聞いて「保育士自身の成長にもつながるのではないか」と感じました。

いろんな園のやり方を学ぶことができますし、改めて当園や当園で働く保育士さんの魅力に気がつくきっかけになるかもしれない。タイミーでいろんな経験を積むことで、保育士として働く上での視野が広がると思いました。園に限らず、飲食店で働いて接客方法を身につけるのも良いですよね。保育士自身がタイミーで働くことにより、社会人として良い学びを得られると思いますし、園同士の労働力シェアにもつながるかもしれません。

小川:嬉しいお言葉ありがとうございます。ぜひ宗像市全体でタイミーを活用いただければ嬉しいです!最後に、今後の宮部さんの目指すことについて教えてください。

宮部さん:目指すべき園として、「子どもたちが毎日楽しみになる園」「子どもたちが憧れる職員がいる園」「20年後、いちごいちえんを卒園してよかったと思える園」の3つを掲げています。多様性を受け入れ、前向きで自分たちの意見が持てるような人材を育てていきたいと考えています。そうなったときに、大切なのは一番近くにいる保育士たち自身がイキイキと過ごしていることなんですよね。時間に追われ厳しくしつけるのではなく、子どもたちの主体性を尊重していくためにも、保育士自身が伸び伸び働ける環境を作っていきたい。

そのために、タイミーを人手不足解消だけのために活用するというのはもったいないと思っています。子どもたちがさまざまな大人に出会ってもらうため、良い人材を採用するため、保育士自身の成長のため……など、使い方次第では私たちが目指す園に近づくためのツールになり得るのではないかと思いますね。

小川:宮部さん、本日はありがとうございました!

保育士自身のスキルアップ

 

突発的な人手不足解決のために、スポットワークは有効【宗像市インタビュー】

続いて、保育・介護に力を入れ取り組みを進めている宗像市にもインタビューを行いました。宗像市経営企画課 惠下尚輝さんにお話を伺います。

宗像市経営企画課 惠下尚輝さん

宗像市 経営企画課 惠下尚輝さん

——まずは、宗像市が介護・保育などの専門領域に力を入れ始めた理由についてお聞かせください。

惠下尚輝さん(以下、惠下さん):宗像市では労働力不足解消を目指し、令和6年4月に「人づくり推進係」を新設しました。人手不足の実態を調査していく中で、特にエッセンシャルワーカーと呼ばれる、介護・保育などの福祉分野の人材不足が深刻化しているという声が多く上がっていたんです。そこで、タイミーさんと連携協定を結ぶにあたり、市内の各種産業における人材不足や後継者不足の解決を目的にしましたが、介護・保育分野といった専門領域にも注力しようと決めました。

corp.timee.co.jp

これまで宗像市では、宗像の魅力を知ってもらい、保育士として働きたいと思ってもらうために、養成校の訪問や保育フェアの開催、大学の学生さんと宗像市で働く保育士が一緒に学ぶ連携プログラムなどに取り組んできました。また、就職支援金の交付や家賃補助を行って、保育士として働き始める第一歩を後押しするとともに、保育現場のICT化や処遇改善に向けた取り組みを進めることで、保育士の働きやすい環境づくりを支援してきました。     

その一方で、「フルタイムで働くのは難しい」「時間ができたら働きたい」といった、有資格者の掘り起こしを考えたときに、スポットワークをうまく活用できないかと考えました。スポットで働くことで、いずれ保育士として長期的に働くことに興味を持ってもらえないかと。保育士の労働力を確保する、一つの手段としてタイミーを紹介しています。保育園側としても、急な欠員が発生した場合の安心要素として、人材確保のための選択肢が増えることは良いことだと感じております。

——長期雇用に向けた活動と合わせて、短期的な人員確保ツールとしてタイミーに可能性を感じられたわけですね。

惠下さん:「協定」にこだわったわけではありませんが、事業者としても後ろ盾があった方が安心して利用することができます。実際、園長会や事業者向けのタイミー説明会もスピード感を持って進めることができました。

一番不安だった「専門職分野の中で活用」についてもタイミーさんから丁寧に説明いただけましたので、私たちとしても安心して推進することができました。

また、全てをスポットワークで補うのではなく、事務や清掃など保育士さんの業務を切り出して一部分で活用するというやり方であれば、安心して利用が出来ます。やはり保育や介護などの専門職分野での安心安全性は事業者としても気になるところですからね。誤った使い方をしないよう注意喚起することも忘れないよう心掛けていきたいと思っています。

——今後スポットワークをどのように活用していきたいと考えていますか?

惠下さん:保育介護分野におけるスポットワークの活用推進をしつつ、それを他の業界にも展開していきたいと考えています。また、介護分野に至っては業務を細かく洗い出し切り分けができるように整理をしているタイミングです。ここが完了したらスポットワークもうまく活用できるのではないかと思います。

また、今までは事業者向けへの支援に注力してきましたが、今後は働き手に対しても発信していくことを考えています。働きたくても働けないという層に対して、さまざまな働き方があることを伝えていくことも強化したいですね。

保育士人材の掘り起こしは、市としても今重要なミッションです。スポットワークも上手に活用すれば、人材確保の解決手段となりますし、現場の負担を軽減することが可能になります。実際に、いちごいちえんさんのような好事例も生まれていますので、協会や各団体と密に連携をとりながら、スポットワークの最適な活用方法を模索していきたいです。

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