「市民の命を守る」使命感から生まれた支援事業 – 富良野市がタイミーと目指す介護人材確保の取り組み

「市民の命を守る」使命感から生まれた支援事業 – 富良野市がタイミーと目指す介護人材確保の取り組み

北海道の美しい自然に囲まれ、観光地として多くの人々を魅了する富良野市。しかし、その豊かな魅力の陰で、地域住民の生活を支える介護福祉の現場は深刻な人材不足という課題に直面しています。

ハローワークにおける介護職の求人倍率が2倍を超える状況、さらには人手不足による事業所の閉鎖といった現実が突きつけられる中、富良野市は「市民の命を守る」という強い使命感のもと、革新的な取り組みに踏み出しました。

それが、「タイミー」をはじめとした、スポットワークサービスの利活用を後押しする介護事業者に特化した助成金制度「 富良野市介護スポットワーク活用支援事業」です。そこで今回は、本制度を創設した富良野市様、道内でサービス付き高齢者向け住宅や介護付き有料老人ホームを営み、実際に本事業を利用している介護事業者様、そして、タイミー社に話を聞きました。地域に根ざした新しい介護人材確保の挑戦の全貌と、富良野市が描く未来を探ります。

・富良野市 保健福祉部 高齢者福祉課 課長、地域包括支援センター所長 佐藤知江さん
・富良野市 保健福祉部 高齢者福祉課 介護保険係 増田大五郎さん
一般社団法人 日本地域福祉協会 理事 黒川勝弘さん
・株式会社タイミー 市場開発本部 介護福祉グループ 東日本介護福祉チーム ウォルター綾

介護分野における人手不足の現状と「命を守るため」の決断

——本日はお忙しいところありがとうございます。はじめに、富良野市が抱える介護人材に関する課題についてお聞かせいただけますでしょうか?

佐藤知江さん(以下、佐藤さん):富良野市では、2024年度から3年間を「人材確保の重点期間」と位置づけています。特に介護分野は、市民の命に直結するエッセンシャルワークであり、我々としても喫緊の課題となっています。実際、ハローワークで出している求人倍率は2倍を超え、これは管内平均よりも圧倒的に高い数値です。また、人手不足を主な原因として、止むを得ず介護施設を閉鎖したケースもありました。

黒川勝弘さん(以下、黒川さん):実際、市内の有料老人ホームが宿泊施設に業種転換した事例があります。もちろん人手不足以外の理由もあったとは思いますが、同じ介護事業を運営している立場としては決して他人事ではありません。

——そのような背景もあり、「富良野市介護スポットワーク活用支援事業」を立ち上げたのですね。

増田大五郎さん(以下、増田さん):そうですね。人材確保は長年の課題であり、富良野市としてこれまでもさまざまな施策を検討・実施してきました。私は当時商工観光課に籍を置いていましたが、商工分野に限らず、業界の枠を超えて地域全体で人材確保対策を講じる必要性を強く感じていました。

佐藤さん:保健福祉部の取り組みで言いますと、令和6年度に介護分野への就業希望者の掘り起こしと就業支援を目的として、市が費用を負担し、3カ月間の研修および、研修終了後に介護施設とのマッチングを行う事業を実施しました。募集人数に達したものの、想定していた効果が望めないこともあり、今年度は継続を断念しました。

事業者の方々からは、人材確保において人材紹介会社を利用すると多額の費用がかかることを聞いておりましたので、その負担を軽減したいという思いもありました。その中で、スポットワークの利用は、必要なときに必要な方に働いてもらうという仕組みなので、事業者側のメリットが大きいと感じました。

富良野市 保健福祉部 高齢者福祉課長 地域包括支援センター所長 佐藤知江さん

富良野市 保健福祉部 高齢者福祉課長 地域包括支援センター所長 佐藤知江さん

——行政において、計画を見直すことは珍しい印象です。

佐藤さん:おっしゃる通り、行政は一度始めた事業の廃止には相当の理由が必要であり、難しい印象があるのかもしれません。しかし、富良野市、特に保健福祉部においては、前述の課題感から早急に対策を講じる必要性があったことから、「難しいと判断したらすぐに止める」くらいの覚悟で、新しいことをどんどん試していこうという方針があります。

現在は全国いずれの市町村においても、介護人材の人手不足には頭を悩ませている状態です。であれば、「もっと面白いことをやっていこう」と。そこで、今年度から富良野市介護スポットワーク活用支援事業を実施することにしました。

——多くの自治体が業界を問わず助成金を出している中で、なぜ介護分野に特化したのでしょうか。 

佐藤さん:いずれの産業も富良野市にとっては重要ですが、特に介護人材の確保は市民の命に直結するため、優先的に取り組むべき課題であるという認識が、部内はもちろん市長や副市長にもありました。介護事業所がなくなってしまうと市民生活に甚大な影響が出てしまいます。そのため、介護分野に特化することに意味があると判断しました。

役所内でも驚きの声があったかもしれません。しかし、それだけ重要性が高い施策であると認識されています。予算に関しても既存事業のスクラップによって財源を捻出し、財政当局の理解を得ることができました。

——富良野市によるスポットワークの導入支援はタイミーとしても嬉しいことですが、そもそもタイミーと接点を持った最初のきっかけはなんだったのでしょう。

増田さん:きっかけは昨年開催された「 ふらの未来農業エキスポ2024」でした。タイミーさんがブースを出展されていたのを見かけまして、私自身とても興味があったので、自治体との関わりについてお話を伺ったのが最初です。その際、「介護施設においても、タイミーの導入は増えています」と丁寧に教えてくださいました。確かに、テレビCMでの認知もありますし、利用者にとってスマートフォン1つで完結できるのは便利で働きやすいだろうと感じました。商工観光分野のみならず、広く知ってもらいたいという思いから、庁内にタイミーの案内を展開しました。

富良野市 保健福祉部 高齢者福祉課 介護保険係 増田大五郎さん

富良野市 保健福祉部 高齢者福祉課 介護保険係 増田大五郎さん

佐藤さん:タイミーさんの場合、介護専門のチームがあるということも大きかったですね。当時、商工観光課に所属していた増田からの案内もあり、また、上司である保健福祉部長も同イベントに出席し、タイミーさんに可能性を感じていたこともあって、一度話を聞いてみたいと思いました。

その後、ウォルターさんから富良野市内・沿線のワーカー(働き手)登録者数などを教えていただいたのですが、特に介護に関する有資格者が予想以上に多くいらっしゃるという話を聞いて、非常に驚きました。「これだけの登録人数が富良野市近辺にいらっしゃるのに、もったいない!この状況をぜひ事業者の皆さんに知っていただきたい」と強く思ったんです。また、業務の切り出しやマニュアル化など、事業者さんの導入ハードルを下げる仕組みがあるのも魅力的で。それが、行政として事業者さんとスポットワーカーさんをつなぐ場を作る大きな決め手となりました。

ウォルター綾(以下、ウォルター):私たち介護チームの特徴として、導入前に業務内容を把握した上で、細分化し、資格や実務経験の有無に応じた業務の切り出しのご提案やマニュアル作成支援を行っています。介護は人命を預かる仕事ですから、スポットワーカーに任せづらいと考える事業者様も多いですが、実は介護業界こそタイミーのようなスポットワークに向いていると感じています。

株式会社タイミー 市場開発本部 介護福祉グループ ウォルター綾

株式会社タイミー 市場開発本部 介護福祉グループ ウォルター綾

私が高齢福祉課の皆様とお話しさせていただいた際、介護資格を持つ方が富良野市内に数多くいらっしゃるにもかかわらず、介護業界からの募集がほとんどないという現状をお伝えしました。そこで、タイミーによる事業者向けセミナー開催だけではなく、介護・福祉事業者様に向けたスポットワーク活用の補助のご提案をしました。事業者様にとっても富良野市からの後押しがあればもっと前向きに導入いただけるのではないかと思ったんです。すると、とても前向きにご検討いただけて。

佐藤さん:12月にタイミーさんと最初の打合せをしてから、令和7年度の予算要求に間に合うよう、すぐに課内で動き始めたのですが、その際、事業開始に向けてウォルターさんにはご尽力いただきました。

ウォルター:すぐにご活用いただけるよう、3月に介護事業者向けセミナーを実施できたことも大きかったと思います。セミナー翌日には議会で新年度予算が可決されたことを伺い、そのスピード感に驚きましたが、その分職員の皆様の熱い想いが伝わり、私自身も気が引き締まったのを覚えています。

長期採用する際に手数料がかからない。スポットワーク導入の思わぬ効果

——多くの介護事業所では、知らない人が突然現場に来ることに抵抗があるという声も聞きます。そのあたりの不安はなかったのでしょうか?

佐藤さん:ウォルターさんもおっしゃっていましたが、確かに当初は「スポットワークという働き方は、介護には向かないのではないか」という不安の声がありました。知らない人が突然来て、チームワークを大切にする現場に馴染めるのか、利用者の方々が受け入れてくれるのか……といった不安が先行してしまうようです。介護の現場は人と人との関わりが密接ですから、そういった懸念は当然だと思います。

だからこそ、私たちが事業者の方々にスポットワークのメリットを直接聞いていただくきっかけを作ることが重要だと考え、セミナーを実施いただきました。同タイミングで助成金制度の概要説明も行い、富良野市としても、ただ事業を成立させるだけではなく、事業者さんの不安を払拭し一歩踏み出してもらうきっかけを作りたかったのです。

——黒川さんは以前からタイミーを利用されていたと伺いました。

黒川勝弘さん(以下、黒川さん):当社団法人では富良野市以外にも施設を所有しています。以前、岩見沢市の施設で同時期に離職や怪我による休職が出てしまい、常勤職員4人ぐらいが稼働できない状態になったことがありました。そうなると一気に現場が回らなくなり、利用者様に手厚いサポートをすることができません。困っていたところ、理事長から「タイミーを使ってみたらどうだろう」と提案され、導入することになりました。

佐藤さん:黒川さんは実際に事業者向けセミナーにも参加いただきましたね。

黒川さん:すでに一部の施設で利用していたのですが、改めてタイミーの理解を深めたいと思ったんです。富良野市の支援のことを知り、本格的に導入を検討しようとセミナーに参加しました。その際に、業務の切り出しをすることでワーカーさんに任せられる業務があると改めて理解することができました。

一般社団法人 日本地域福祉協会 理事 黒川勝弘さん

一般社団法人 日本地域福祉協会 理事 黒川勝弘さん

現場からは「タイミーを通じて働きに来てもらっても、教える手間がかかる」と不満が出るのは当然です。しかし仕事内容を見直してみると、「ゼロから教えなくても、できる業務」は絶対あるんですよ。「資格保有者であれば口頭で理解してもらえる」といった感じでちゃんと洗い出せば、短い時間ですぐに活躍いただくことができるんです。新しい従業員が来た時と同じように、ワーカーさんにも責任を持って業務を任せるスタンスでいます。リスクは私が取るから、と伝えています。介護の現場では怪我のリスクもありますが、それを恐れていては何も始まりません。

ウォルター:現場の方の負担を軽減することが、私たちが目指しているところですので、そのように言っていただけて嬉しいです。

黒川さん:反対に、ワーカーさんからのレビューを通して、自分たちでは気づかない現場の改善点やご家族が感じる施設の雰囲気などを把握でき、改善に努めていくつもりです。外からの目線でご意見をいただく機会はなかなかありませんからね。

——他にも、タイミーを利用して良かった点があれば教えてください。

黒川さん:タイミーを利用することの最大の魅力は「長期雇用が無料」だと思っています。人材紹介で採用すると給料の30%を払いますし、半年以降退職されてしまうと返金対応されないのはとても厳しいんです。その方の雰囲気や仕事の仕方、チームとの相性は面接ではわからないじゃないですか。いざ採用してもすぐに辞めたりして経営側としては頭を悩ませていました。

ですから、タイミーみたいに、面接では100%分からない、実際の働きぶりを見極められることはとてもありがたいですし、「このワーカーさんいいな」と思ったらお声がけできることが一番のメリットだと思います。介護の仕事は、知識や技術はもちろん大事ですが、利用者さんとの相性やチームメンバーとの連携など、人柄が非常に重要。実際に現場で働いてもらうことで、その人の適性や人間性を深く理解できるんです。ここが、お金に代えられないタイミーの価値だと思っています。

——具体的なエピソードはありますか?

黒川さん: タイミー経由で働いてくれた方が、長期雇用につながったケースがあります。その方は非常にフレンドリーで、言われたことを素直にやってくれる方でした。オリエンテーションの時に雑談を交わし、「なんでタイミーを通じて働きに来てくれたの?」「他でも働いているの?」などと聞くと、向こうも色々と話してくれて、より深く人となりを理解できましたね。こまめなコミュニケーションを通じて、結果的に長期採用につなげることができました。今は家庭の事情で働いていないのですが、「いつでも戻ってきてくださいね」とやりとりしています。

いつでも戻ってきてくださいね

ウォルター:実際に長期採用のきっかけになったのですね。嬉しいです。長期採用につなげるにあたって、黒川様の方で意識されていることはありますか?

黒川さん:介護ってどうしても「大変そう」「きつそう」と悪いイメージがあります。でも、僕は「人生の3分の1近くを働く時間にかけるんだから、楽しく働こう。笑って働ける職場を目指そう」といつも言ってるんですね。だから、技術以上に「人を思いやれる心」「笑う気持ち」を持った人に働いてほしいと思っているんですよ。ちょっとルーズでも楽しめることが大事ですから。そういう履歴書だけではわからない人がタイミーをきっかけに見つかるといいですね。

事業者の声を大事にしながら、スポットワークの浸透を目指す

——実際にスポットワーク支援事業を開始されて、介護事業者の方々からの反応はいかがでしょうか?

増田さん: 何件かお問い合わせをいただいております。この事業は、タイミーさんをはじめとするスポットワークを活用して介護人材を確保された事業者の費用負担軽減を図るもの。「こういう機会だから活用してみようかな」という前向きな声や、黒川さんのように元々タイミーを利用されていた介護事業者さんからは「支援してくれてありがたい」という声をいただいています。上限10万円という制度のため、複数回利用してからまとめて申請を考えている事業所もあるため、まだ申請自体はありませんが、手応えは感じています。

事業者の声を大事にしながら、スポットワークの浸透を目指す

黒川さん:富良野市は地域ケア会議を頻繁に開催しており、事業者の皆さんが参加する機会があります。そこでタイミーの活用事例などを発表する場を設けていただければ、他の事業所にもメリットが伝わりやすいと思います。実際にある介護施設では、夜勤のワーカーさんをスポットで募集しうまくいっていると聞きました。副業として働きたい現役の介護従事者の方々に利用されているようです。

ウォルター:タイミーとしても、実際に活用いただいている事業者様の声から、サービスの改善や新たな施策提案につなげたいと考えています。

——最後に、この事業を今後どのように発展させていきたいか、富良野市としての展望をお聞かせください。

増田さん: まずは、現場負担が大きい介護福祉施設でスポットワークを活用いただけるよう、事業者さんの意見を伺いながら改善していきたいと考えています。

富良野市は観光都市ということもあり、どうしても時給水準が高くなってしまいます。そのため、介護福祉業界で働きたいという人を増やすためにも、助成金制度を上手に活用していただけたら嬉しいですし、我々も活動し続けなければなりません。働き手を増やすために、商工観光課などと連携しながら新しい働き方や就労支援について発信していきたいと思います。

佐藤さん: タイミーさんなどのスポットワークの活用によって、介護人材確保の一助となるよう、来年度以降も助成金事業を継続し、まずは一度使ってみようという事業者さんが増えてほしいと思います。黒川さんやウォルターさんをはじめ、市内の事業者の皆様のご協力を仰ぎながら、一緒に取り組んでいきたいです。

——今後も富良野市様と連携し、介護分野で抱える人材問題に向き合いながら、スポットワークがより浸透していくよう尽力していきたいと思っています。本日はありがとうございました。

スポットワークがより浸透していくよう尽力

おすすめ記事