
全国の多くの地域で深刻化する「人手不足」。特に、若者世代の流出という構造的な課題を抱える地域にとって、事業者の人材確保は喫緊の経営課題となっています。
長崎商工会議所もまた、この課題に真正面から向き合う支援機関の一つです。2025年2月、同会議所はスキマバイトサービス「タイミー」との連携協定を締結しました。
しかし、その取り組みは単なるサービスの紹介に留まりません。
事業者がサービスを「自分ごと」として捉え、活用できるようになるまで支援する、現場主義を大事にする姿勢がそこにはあります。
本記事では、事業者向けに実施した「セミナー&業務切り出しワークショップ」や、職員向けの勉強会の様子を伝えます。そして本連携を推進する総務部 総務企画課 係長の前田健也さんと中小企業振興部 経営支援課 係長の松尾洋介さんに、タイミーとの連携の背景や今後の展望についてインタビューを行いました。
「事業者目線での導入支援を」長崎商工会議所とタイミーの具体的な取り組み
2025年9月17日長崎商工会議所では、「『タイミー』で叶えるカンタン人手不足解消術」をテーマにタイミー導入セミナーを開催しました。
はじめに、株式会社タイミー 九州支社 パートナーセールスの今村遼太郎が、長崎市内での市場感や働き手のニーズ、タイミーの機能や活用方法について説明を行いました。
その後、「どの業務をどのように切り出してスポットワーカーに任せられるか」をテーマに、自社における活用方法について考えるワークショップを実施。参加者一人ひとりが自社の課題と向き合い、活用の具体的なイメージを掴むことを目指しました。


実際、単純な機能説明を聞くだけではなく実践的ワークを行うことで、「うちの業種では難しいだろう」と考えていた事業者様からも、具体的な活用案が生まれ、早速お申し込みにつながっています。本セミナーの参加者アンケートでは、「タイミーの説明は理解できたか」という問いに対し、全員が「大変よく理解できた・理解できた」と回答されるなど、満足度も高い結果となりました。
別日には、実際に職員の方にも業務の切り出しを行っていただく勉強会を実施しました。「事業者様にどんな求人をタイミーで出すと良いのか説明できるようになりたい」という職員の声に応え、求人票を作成・掲載するまでの一連の流れを体験できるプログラムです。導入時につまずきやすいポイントやワーカーの経験や資格有無に合わせて任せやすい業務を考えることで、より的確なアドバイスができる体制を整えています。


【長崎商工会議所インタビュー】スポットワークを新たな手段にした理由

「若い人が外に出ていく」構造的な人手不足という課題
——本日はよろしくお願いいたします。まず、今回の連携の背景にある「長崎エリアの人手不足の現状」について、これまでの取り組みの経緯も踏まえてお聞かせください。
前田健也さん(以下、前田さん):私は総務企画課に所属し、主に商工会議所の議員の方々や比較的規模の大きな事業者様を、松尾は経営支援課で小規模事業者様の窓口相談を主に担当しています。それぞれの立場で多くの事業者様と接する中で、人手不足の深刻さは年々増していると肌で感じていました。
商工会議所としては、令和4年に「人材確保育成特別委員会」を立ち上げるなど、組織全体でこの課題に向き合っています。実は、人材不足解消に向けた動きは以前から進めており、高校の就職担当の先生方と意見交換会を開くなど、積極的に活動していました。特に製造業を中心とした工業会では、かなり早い段階から強い危機感を持っており、高校生向けの職場見学やバスツアーを企画・実施するなど、さまざまな取り組みを行っていました。
松尾洋介さん(以下、松尾さん):構造的な問題として、長崎県は高校を卒業した若い世代が県外に出ていくケースが多く、人口転出数は全国で常にワースト3に入るほどです。そもそもの働き手の母数が少ない状況がずっと続いています。そのため、我々の専務理事も「最優先で取り組むべき経営課題」と常々話しており、若者世代の確保と同時に、子育て中の方や高齢者、外国人といった多様な人材の就労支援にも継続的に取り組んでいます。
——当初は製造業での課題が大きかったとのことですが、現状はいかがでしょうか。
松尾さん:コロナ禍以降、その波は宿泊業や運輸業、タクシー業界など、あらゆる業種に急速に広がりました。かつて長崎は製造業や水産業が盛んでしたが、今は飲食・ホテルなどのサービス業が圧倒的に多く、他の都市と比べてもその割合が高いのが特徴です。
前田さん:実際に商工会議所の会員構成を見ても、サービス部会の会員が最も多いですね。今も伸び続けています。しかし人材確保は、もはや特定業種の課題ではなく、地域経済全体を揺るがす喫緊の課題となっていると感じています。
「うち、使ってますよ」の声が後押しに。スポットワークへの期待
——さまざまな打ち手がある中で、スポットワーク、そしてタイミーに関心を持たれた経緯について教えてください。
松尾さん: 正直なところ、最初は懐疑的でした。「長崎でスポットワークなんて使う人は本当にいるのだろうか」「そもそも法的にはどうなんだろう」と。テレビCMで見るくらいの印象しかなく、活用の具体的なイメージが全く湧かなかったというのが本音です。
前田さん:協定締結のきっかけは、長崎においても人手不足が深刻化している状況で、地域の事業者様への支援策を検討する中で、日本商工会議所から「スポットワークの活用が進んでいる」とタイミーのサービスをご紹介いただいたことです。そこからトップダウンで話が急速に進みました。私にとって転機となったのは、会員である飲食店の経営者の方との会話でした。「今、店ではタイミーを導入しているんですよ」と話されているのを聞いて、初めて「本当に使われているんだ!」と身近に感じました。さらに別の機会に東京へ行った際、ある店舗で実際にタイミーの働き手さんたちで運営されているのを目の当たりにし、タイミーの浸透度はもちろん、活用方法に衝撃を受けました。

こうした実例に触れる中で、「ここまで一般的なサービスになっているのか」「これは長崎の事業者様にとっても有効な選択肢になるのではないか」という確信が深まり、単なる情報提供ではなく、会議所として責任を持って推進するために「協定」という形を模索するに至りました。
——他にも類似サービスがある中で、タイミーを選んでいただいた決め手はあったのでしょうか。
前田さん:やはり一番名前を聞いたことがあったという知名度と、すでに他の商工会議所と連携されている実績があるという安心感が大きかったですね。
異例の「協定締結」。長期・短期の両輪で課題解決を
——今回、サービスの紹介だけでなく、今回は正式な「連携協定」という形を取られました。長崎商工会議所が特定の民間企業一社と協定を結ぶのは珍しいと伺ったのですが何か意図があったのでしょうか。
松尾さん:おっしゃる通り、我々としても民間企業と協定を結ぶことはほとんどなく、異例の判断です。それだけ人手不足に対する危機感が強く、「やれることは全てやろう」という総力戦の意識が組織全体にあったからです。
協定式での会頭のコメントにもありましたが、セミナーのような「啓蒙・啓発活動」と、事業者様が今まさに直面している「足下の人手不足」という短期的な課題解決、この「両輪」で進めていく必要があると考えています。

前田さん:タイミーさんは、今すぐ人が欲しいという喫緊のニーズに応えられる。まさに直面する課題解決の柱として、正式に連携し、全会員に広く周知していくべきだと判断しました。また協定を結ぶことで、会員様向けに特別なサポートができることも大きな理由の一つです。
——組織全体で、というお話がありましたが、具体的にはどのような体制で進められているのですか?
松尾さん:人手不足という課題は、特定の部署だけで解決できるものではありません。そこで、小規模事業者様向けの中小企業振興部と、より大きな企業様を担当する総務部とが部署の垣根を越えて連携しています。それぞれの知見を持ち寄り、あらゆる規模の事業者様をサポートできる体制を築いているのが我々の強みです。
「知る」から「使う」へ。事業者視点を大事に伴走する
——協定締結後、事業者様に活用してもらうために、どのような取り組みをされていますか?
松尾さん:最も力を入れているのが、単なるサービス説明会で終わらせないことです。本日開催した事業者様に向けたセミナーでは、「自社だったらどの業務を切り出せるか」を具体的に考えるワークショップ形式を取り入れました。 実際に、当初「うちはBtoBの卸売だからタイミー活用は難しいかな」と話されていた事業者様も、ワークショップを通じて任せたい業務内容を書き出していくうちに、「年度末の繁忙期に、商品の仕分け作業でなら使えるかもしれない」と、活用のイメージを掴んでくださいました。この「自分ごと化」のプロセスが非常に重要だと感じています。
——職員の皆様も、実際にタイミーを使ってみる勉強会を実施されたそうですね。
松尾さん:はい。「事業者様に使い方を聞かれた時に、自分たちが答えられないと意味がない」という考えから、職員向け勉強会の開催をお願いしました。実際にアカウントを作って求人票を出すところまで体験したのですが、これが非常に勉強になりました。 例えば、魅力的な求人票のキャッチコピーを考えようとしても、意外と筆が止まってしまう。慣れていない事業者様がどこでつまずくのか、身をもって理解できたのは大きな収穫でした。 こうした経験があるからこそ、「一緒にやってみましょう」と、事業者様と同じ目線で伴走できるのだと思います。

デジタル化の推進と、その先の未来
——最後に、今後の展望とタイミーに期待することをお聞かせください。
松尾さん:今回の連携は、潜在的な地域の労働力の掘り起こしと、まずは入り口としてのマッチング機会の創出、さらには短期的な課題解決から長期雇用へつながる大きな機会だと捉えています。また、単なる人手不足対策だけでなく「デジタル化による省力化」という側面も大きいと考えています。募集から採用、給与の振り込みまで、これまで多大なコストと手間がかかっていた部分を効率化できるのは、事業者様にとって大きなメリットです。 これによって生まれた時間や労力を、本来注力すべき経営改善や新しいサービスの開発に使っていただきたい。そのための強力なツールとして、タイミーの活用をさらに推進していきたいです。
また、私は創業支援も行っているのですが、会社を立ち上げた当初に従業員を雇うのは難しい。そんなときにタイミーを活用するのもいいのではないかと考えています。
前田さん:商工会議所として経営支援のコンサルティングを行いますが、労務などより専門的な分野では限界があります。今後は、タイミーさんが持つ豊富なデータやノウハウを活かして、例えば「こんな業務の切り出し方がありますよ」といった現場改善につながるような、より踏み込んだご提案もいただけるとありがたいですね。
——本日は貴重なお話をありがとうございました。